大阪地判令和4年(ワ)3344【高純度PTH含有凍結乾燥製剤…の製造方法】<武宮>
①★構成要件1Cの「0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」とは、何らかの方法により実現すれば足りる。⇒充足
②★従来技術とは目的が異なるとして、新規性/進歩性〇
※構成要件1Cの「0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」を目的として、当該目的が従来技術に無いから新規性・進歩性を欠くとするならば、充足論も、用途発明のように、ラベル論に準じた扱いをしないと不衡平なのでは?
Cf.東京地決令和6年(ヨ)第30029号【加齢黄斑変性症事件】<中島裁判長>が、医薬用途発明の実施を専ら基準により非充足とし、一定割合でよいという特許権者の主張によれば新規性を欠くとして、特許権侵害を否定したこととの対比的考察をすべきであろう。
(判旨抜粋)
① 被告は、構成要件1Cの「0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」とは、本件発明の目的をそのまま抽象的に記載するのみで、クレーム上、具体的な構成は特定されておらず、このような広すぎる抽象的なクレームは、明細書に記載された具体的な構成に限定解釈されるべきであって、予め凍結乾燥庫内の空気を窒素に置換することによって(これに副扉等の構成が付加されているものも含む。)、無菌ろ過済みPTHペプチド含有水溶液を充填した半開栓バイアルを凍結乾燥庫に搬入する工程において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する」方法と解釈されるべきである旨主張する。しかし、構成要件1Cは、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを規定するのみで、その手段について特定の方法に限定するものではなく、本件発明の他の構成要件において、これを限定する記載はない。また、本件明細書には、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段は特に限定されないことが明記されて…いる。このような構成要件及び本件明細書の記載内容に照らすと、本件発明1において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段は限定されておらず、何らかの方法によりこれを実現すれば足りるものと解される。したがって、被告の前記主張は採用することができない。
② 確かに、乙1公報の特許請求の範囲の充填することによって薬剤の酸化防止を図ることができる、との技術常識が存在したとしても、乙1公報に、酸化抑制効果を意図とおり、乙1発明では、滅菌「不活性」保護ガス(窒素)が使用され、これには酸化抑制効果があるが、これは薬剤を無菌状態で移送することを目的としていると解されるのであって、上記の発明の詳細な説明に鑑みれば、当業者が、周囲空気との接触による酸化の抑制を目的としていると認識するとは認め難い。被告が主張するような、窒素等の不活性ガスは滅菌されなければ「滅菌不活性保護ガス」にはならない、薬剤と周囲空気との接触を抑制し、「不活性ガスを充填することによって薬剤の酸化防止を図ることができる、との技術常識が存在したとしても、乙1公報に、酸化抑制効果を意図した具体的な記載がなく、薬液と周囲空気との接触の抑制による酸化の抑制との技術思想が開示されているとは認められない。
そして、…乙1公報記載の実施例は「二酸化炭素に敏感なオメプラゾール」に関するものであるところ、オメプラゾールが、酸化防止を要する薬剤ではなく、「無菌状態で移送しようとしている」非密封容器内の薬剤の例として挙げられていることも踏まえると、当業者が、このような実施例を周囲空気との接触による酸化の抑制を要する薬剤の例と解するとは認められない。…
本件発明は、PTHペプチドを含有する製剤は特 に高純度であることが必要とされるという従来技術の課題に加え、本件発明の発明者らが、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されることを知見したことによるものであるところ、乙1公報に工業的製造を前提とする前記課題に関する記載や示唆はなく、本件特許の 優先日前において、前記知見が技術常識であったことを裏付ける資料もないから、乙1公報に接した当業者が、PTH含有凍結乾燥製剤の搬入工程においてPTH類縁物質が生成されるという課題を認識することにはならず、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することに関する動機付けがあるとはいえない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/485/093485_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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