1.本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
本願商標の指定商品・役務一般に照らして本願商標の需要者と想定される一般消費者を基準に考えた場合、本願商標を付した包装箱(通称オレンジボックス)の使用及び宣伝広告を通じて、本願商標それ自体から「エルメス」ブランドを認識できるに至っていると即断できず、また、認知度アンケート調査の結果も広く一般消費者を対象としていない点で不適当であるから、さらに、指定商品・役務中の一部は不使用であるから、本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得を認めることはできない。
2.独占適応性の問題について
本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定されるものではなく、箱全体の橙色とその上部周囲の茶色を組み合わせた特有の構成を有するものであり、その独占を認めたからといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではなく、また、当該構成が多数の事業者によって広く使用されているような取引の実情が認められるわけでもない。また、本願商標の登録が認められたとしても、これに類似する使用態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が少なくないから、その萎縮効果を過大に評価すべきではない。
1.本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
従前の裁判例上、(輪郭のない)単一の色彩のみからなる商標については、他の事業者に対して色彩の自由な選択・使用を不当に制限することを避けるという公益上の要請(独占適応性)が重視され、下表のとおり、商標法3条2項該当性が否定されてきた。一方、色彩のみからなる商標の登録例としては、例えば、下表のとおり、複数の色彩の組合せによるものが挙げられる。かかる状況下で、判決要旨1は、箱全体の橙色(RGBの組合せ:R221、G103、B44)とその上部周囲の茶色(RGBの組合せ:R94、G55、B45)の組合せのみからなる本願商標について、本願商標の使用による自他商品・役務識別力の獲得を、判決要旨2のとおり独占適応性それ自体を否定することなく、不使用の商品・役務を含む指定商品・役務一般との関係において一般消費者を基準として否定したものである。よって、判決要旨1は、複数の色彩の組合せのみからなる商標の商標法3条2項該当性を一般的に否定したものではない。
2.独占適応性の問題について
判決要旨2は、本願商標について、単に2色の組合せのみからなる商標ではなく、各色が箱全体及びその上部周囲に配された、立体的形状と色彩の結合商標類似の要素を含むという特徴を有することに着目し、かかる特徴を有する商標が他の多数の事業者によって広く使用されているような取引の実情がない一方、そのような使用は不正競争防止法2条1項1号に該当することが少なくないことを考慮して、その独占適応性を肯定したものである。
商標権者 | 商標登録番号 | 登録商標 |
株式会社トンボ鉛筆 | 第5930334号 |
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株式会社セブン-イレブン・ジャパン | 第5933289号 |
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株式会社三井住友フィナンシャルグループ | 第6021307号 |
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第6021308号 |
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三菱鉛筆株式会社 | 第6078470号 |
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第6078471号 |
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株式会社ファミリーマート | 第6085064号 |
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ユーシーシー上島珈琲株式会社 | 第6201646号 |
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日清食品ホールディングス株式会社 | 第6534071号 |
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出願人 | 本願商標 | 登録否定裁判例 |
株式会社LIFULL |
橙色(RGBの組み合わせ:R237,G97,B3)のみからなるもの |
知財高判令和2年3月11日(令和元年(行ケ)第10119号)(大鷹裁判長)
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日立建機株式会社 |
オレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)のみからなるもの |
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日立建機株式会社 |
油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウェイトの部分をオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)とするもの |
知財高判令和2年8月19日(令和元年(行ケ)第10146号)(大鷹裁判長) |
三菱鉛筆株式会社 |
「DICカラーガイドPART2(第4版)2251」のみからなるもの |
知財高判令和5年1月24日(令和4年(行ケ)第10062号)(本多裁判長)
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クリスチャン ルブタン | ![]() 女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色(PANTONE 18-1663TP)の色彩のみからなるもの |
知財高判令和5年1月31日(令和4年(行ケ)第10089号)(菅野裁判長)
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1.本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得について
「第1に、本件包装箱の使用及び宣伝広告を通じて、少なくとも、『エルメス』のような高級ファッションブランド商品の購入者やこれに関心を有する消費者の間では、本願商標を付した本件包装箱(オレンジボックス)は、原告の展開する『エルメス』に係るものであるとの認識が広く浸透しているものと認められるが、本願の指定商品及び指定役務に照らすと、本願商標の需要者としては一般消費者を想定すべきであり、そうした需要者を基準に考えた場合、本願商標それ自体から「エルメス」ブランドを認識できるに至っていると即断することはできない。本件各アンケート調査の結果も、この点の認定証拠として不適当である。第2に、本願の指定商品のうち第3類の香料及び第16類の紙製箱等並びにこれらの商品に係る第35類の小売等役務については、本願商標の使用の事実が認められず、これら指定商品・役務について、本願商標の使用による自他商品役務識別力の獲得を認めることはできない。」
2.独占適応性の問題について
「本願商標は、単なる橙色と茶色の組合せをもって特定されるものではなく、箱全体の橙色とその上部輪郭を縁取るように付された茶色を組み合わせた特有の構成を有するものであって、その商標登録を認めたからといって、単純に色彩の独占がもたらされるわけではないし、このような特有の構成を備えた色彩の組合せが多数の事業者によって広く使用されているという取引の実情が認められるわけでもない(上記(1)参照)。また、仮に本願商標の登録が認められたとしても、これに類似すると判断される使用態様は、実際上、不正競争防止法2条1項1号の不正競争にも当たる場合が少なくないと解され(被告提示事例イ(ウ)の販売中止の経緯参照)、その委縮効果を過大に評価すべきでない。」
【Keywords】商標法3条2項、使用による自他商品識別力の獲得、新しい商標、色彩商標、色彩の組合せのみからなる商標、立体的形状と色彩の結合商標、独占適応性、エルメス、オレンジボックス
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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