<本件商標>
<指定役務>
第41類「娯楽施設の提供」他
◆判決本文
1.「ベガス」の語が有する意味及び周知度について
「VEGAS」や「Vegas」の欧文字が,「ベガス」等の片仮名表記と併記されることなく,単体で「ラスベガス」を意味するものとして辞書や記事等に記載された例は見当たらないことから,「VEGAS」の語が「ラスベガス」の略称として広く一般に知られているとは認め得ない。
「ベガス」の語が有する意味として,少なくとも,ラスベガスの略称が含まれることは明らかであるが,辞典はその語の内容を示すものにすぎないから,辞典に掲載されているからといって,直ちに,その語が広く一般に知られていることを示すものではないし,辞典はそれぞれに掲載基準が異なるから,ある語がどの辞典に掲載されどの辞典に掲載されていないかや,その語が掲載された辞典の数の多寡によって,直ちに,その語が広く一般に知られているか否かが判明するものでもない。
「ベガス(Vegas)」の語をラスベガスの略称として見出しに使用しているウェブサイト記事や新聞記事は多数存在する。しかしながら,見出しは,記事内容を厳しい字数制限の下に端的に示さなければならないものであり,記事の性質によっては広く一般に知られている語のみから構成できない場合もあり,あくまで記事本文と一体となって情報を伝えるものであるから,見出しに用いられているからといって,その語が広く一般に知られているものであるとは直ちにいえない。
2.「娯楽施設の提供」の役務との関係における「ベガス」の語の意味について
役務が「娯楽施設の提供」である以上,国外の地であるラスベガスがその提供の場所を表すものとは,通常理解され難い。
また,我が国では「ラスベガス」の語と賭博場のイメージとが観念上強固に結び付いているところ,「娯楽施設の提供」の役務の中には本来,「賭博場の提供」の役務は含まれないと解されることにも鑑みると,取引者・需要者は,「娯楽施設の提供」の役務との関係において「ベガス」の語からなる商標に接したとしても,ラスベガスを直ちに想起し,あるいは役務の質や内容がラスベガスに関連のあるものであると理解するとはいえず,「ベガス」の語からなる商標は,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないとはいえないというべきであり,「娯楽施設の提供」の役務において,「ベガス」の語がラスベガスとの関連性を表示するものとして取引上一般に用いられている事情を認めるに足りる証拠はない。そうすると,「娯楽施設の提供」の役務についてみても,「ベガス」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られていると認めることはできず,ましてや「VEGAS」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとは認め難いから,その余の点について検討するまでもなく,本件商標は商標法3条1項3号の商標とはいえない。
1.判決要旨1は,「ベガス」が辞典に掲載されていること及び記事の見出しに使用されていることは,直ちに,その語が広く一般に知られていることを示すものではないことを判示したものである。
2.判決要旨2は,「娯楽施設の提供」の役務についてみても,「ベガス」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られていると認めることはできず,ましてや「VEGAS」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとは認め難い旨判示したものである。
3. その役務の提供の場所を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、原則として識別力を有さず商標登録を受けることができない(商標法3条1項3号)。なお、商品の産地又は販売地について、ジョージア事件(最判昭和61年1月23日(昭60(行ツ)68号)判時1186号131頁)では、「『商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標』に該当するというためには、必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず、需要者又は取引者によつて、当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもつて足りる」と判示された。本件は、判決要旨1及び2の通り,「VEGAS」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとは認め難いことから,当該語が役務の提供の場所には該当しないため,本件商標が商標法3条1項3号には該当しない旨判示したものである。
1.「ベガス」の語が有する意味及び周知度について
「『VEGAS』や『Vegas』の欧文字が,『ベガス』等の片仮名表記と併記されることなく,単体で『ラスベガス』を意味するものとして辞書や記事等に記載された例は見当たらない。このことだけから見ても,『VEGAS』の語が『ラスベガス』の略称として広く一般に知られているとは認め得ない。」
「『ベガス』の語が有する意味として,少なくとも,ラスベガスの略称が含まれることは明らかである。しかしながら,辞典はその語の内容を示すものにすぎないから,辞典に掲載されているからといって,直ちに,その語が広く一般に知られていることを示すものではないし,辞典はそれぞれに掲載基準が異なるから,ある語がどの辞典に掲載されどの辞典に掲載されていないかや,その語が掲載された辞典の数の多寡によって,直ちに,その語が広く一般に知られているか否かが判明するものでもない。」
「原告は,見出しは,読者が記事内容を一見して把握することができるように構成されたものであるから,『ベガス』の語がラスベガスの略称であることを読者が認識できることが前提とされている旨主張する。しかしながら,見出しは,記事内容を厳しい字数制限の下に端的に示さなければならないものであり,記事の性質によっては広く一般に知られている語のみから構成できない場合もあり,あくまで記事本文と一体となって情報を伝えるものであるから,見出しに用いられているからといって,その語が広く一般に知られているものであるとは直ちにいえない。」
2.「娯楽施設の提供」の役務との関係における「ベガス」の語の意味について
「役務が『娯楽施設の提供』である以上,国外の地であるラスベガスがその提供の場所を表すものとは,通常理解され難い。また,我が国では『ラスベガス』の語と賭博場のイメージとが観念上強固に結び付いているところ,『娯楽施設の提供』の役務の中には本来,『賭博場の提供』の役務は含まれないと解されることにも鑑みると,取引者・需要者は,『娯楽施設の提供』の役務との関係において『ベガス』の語からなる商標に接したとしても,ラスベガスを直ちに想起し,あるいは役務の質や内容がラスベガスに関連のあるものであると理解するとはいえず,『ベガス』の語からなる商標は,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないとはいえないというべきであり,『娯楽施設の提供』の役務において,『ベガス』の語がラスベガスとの関連性を表示するものとして取引上一般に用いられている事情を認めるに足りる証拠はない。そうすると,『娯楽施設の提供』の役務についてみても,『ベガス』の語がラスベガスの略称として広く一般に知られていると認めることはできず,ましてや『VEGAS』の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとは認め難いから,その余の点について検討するまでもなく,本件商標は商標法3条1項3号の商標とはいえないというべきである。」
【Keywords】商標法3条1項3号,商標の識別力,VEGAS, ベガス,Las Vegas, ラスベガス
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
文責:弁理士 石戸 孝
監修:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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