R2.3.19東京地判平成29年(ワ)32839【美容器事件】<田中>

*新製品も均等侵害、*第1~3要件を纏めて判断した、*第4要件も充足

 

「従来の構成の問題点により生ずる技術的課題を解決できることに変わりはなく,…成形精度や強度を高く維持するとともに,美容器の組み立て作業性が向上される…作用効果…は,本件発明と変わらない」

 

(判旨抜粋)

「…本件発明の技術的思想(課題解決原理)は,二股の美容器 において,ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して,ハンドルの内部に各部材を収納する構成とした場合には,ハンドルの成形精度や強度,組み立て作業性が低下するなどの技術的課題が生じていたため,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーで構成することにより,従来のハンドルが上下又は左右に分割された構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとともに,美容器の組み立て作業性が向上されるようにして,上記の技術的課題の解決を図ったというところにあるものというべきである。このような本件発明の技術的思想からすれば,分枝部の軸孔とハンドル本体の凹部が連通していない場合であっても,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーで構成するときには,なお上記の従来の構成の問題点により生ずる技術的課題を解決できることに変わりはなく,この点を置換することによって全体として本件発明とは異なった別の技術的思想となるということはできない。また,新被告製品のように,「連通する軸孔」との構成をとらずに連通していない構成をとった場合にも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとともに,美容器の組み立て作業性が向上されるとの上記作用効果を奏することについては,本件発明と変わらないものと認められる。したがって,本件発明と新被告製品の異なる部分(相違部分)は本件発明の本質的部分ではなく(第1要件の充足),本件発明の構成を新被告製品の構成に置き換えたとしても,本件発明の目的を達成でき,同一の作用効果を奏するといえる(第2要件の充足)。…

 

…本件発明の上記構成から新被告製品の上記構成への変更は,ハンドルの凹部と分枝部の軸孔がつながっていたところを塞ぐものにすぎず,その性質上,当業者において通常行う設計変更の範囲にとどまるものというべきであり,本件全証拠によっても,このような変更を加えることに対する技術的な障害が存することは認められないから,上記変更は,当業者が,新被告製品の製造時において,容易に想到し得たというべきである(第3要件の充足)。…

 

…新被告製品は,前記の本件発明の技術的思想(課題解決原理) を用い,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーで構成することにより,従来のハンドルが上下又は左右に分割された構成よりも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとともに,美容器の組み立て作業性が向上されるようにして,従来技術が有していた技術的課題の解決を図るものであると解される。そして,新被告製品の構成が解決する上記技術的課題は,その性質上,ハンドル本体と分枝部が一体の構成のものを前提として生ずるものというべきであり,新被告製品は,これを前提として,上記のような課題解決手段に係る構成(凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーとの構成)を備えるものである。しかるところ,シャインは,これと異なり,先端側が二股に分かれた分枝部の基端側が,ハンドル本体の長手方向の先端に挿入されている構成であって,そもそもハンドル本体と分枝部とが一体とされておらず,また,上記のような課題解決手段に係る構成(凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーとの構成)を備えてもいないものである。そうすると,シャインは,新被告製品と全くその構成を異にするものであり, 新被告製品と対比すると,課題解決原理を全く異にする別の技術的思想によるものと評価するほかない。また,証拠(乙47ないし49,51)によれば,乙47ないし49,51号証には,ハンドル本体にその表面から内方に窪んだ凹部を有し,その凹部をカバーで覆い,当該表面とカバーによりハンドルを構成することが記載されていることが認められ,かかる記載からは「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部を設けて,ハンドル本体との結合部が露出しない 状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたカバーを設けること」という技術事項を把握することができる。しかし,シャインにかかる技術事項を適用することができるかについては,上記技術事項を技術常識と認めるには足りず,また,技術分野についてみても,清掃用具 (乙47),ヘアブラシ(乙48及び49),電子イオン歯ブラシ(乙51)というように,いずれも美容器とは全く異なる技術分野のものであって,証拠上,当業者がこのような技術事項をシャインに適用するに足りる何らかの示唆や動機付けも認められない。なお,証拠(乙50)によれば,乙50号証の意匠公報には,美顔器に関する図などの記載があるものの,シャインと新被告製品の両構成の重要な相違点であるハンドルの構成の詳細が判然としないばかりか,当該記載のものが,一対のローラを有する二股の美容器であるとも認められないから,当業者がこのような記載をシャインに適用して新被告製品の構成を容易に想到するということもできない。」   https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/421/089421_hanrei.pdf

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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