部分優先①

 

令和元年(行ケ)10132【ブルニアンリンク作成デバイス事件】<鶴岡>

 

*部分優先の考え方

(パリ条約)優先権主張の効果(遡及効)不奏功により基礎出願と後の出願との間の公知技術により後の出願が新規性・進歩性欠如となるか否かのメルクマール

 

(1)基礎出願の発明が1まとまりの完成した発明であり、

(2)後の出願で加えた新たな構成が、基礎出願日と現実の出願日との間の公知技術により新規性・進歩性が否定されない場合は、

優先権が認められる

 

 

 

※本判決は、原告(無効審判請求人)の主張に対応する形で、以下の順序で検討した。

(1) 原告(無効審判請求人)が基礎出願に含まれず後の出願(本件出願)新たな構成と主張する構成(①ないし④)を含まない構成が1まとまりの完成した発明である。

(2) ①ないし④も,それぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであるから,引用発明に対する新規性, 進歩性は,それぞれの構成について,別個に問題とする必要がある。

(3) ①ないし④のうち、基礎出願日と現実の出願日との間の公知技術(甲1動画)により新規性・進歩性が否定されるのは、③のみである。

(4) ③は、基礎出願に含まれている。

⇒パリ優先権が認められる。

 

 

 

(判旨抜粋)

本件発明が…原告が新たな構成であると主張する①ないし④の点を含まない構成,すなわち,本件米国仮出願の明細書に記載された実施例どおりの構成を含むことは明らかであるところ…,この構成は,1まとまりの完成した発明を構成しているのであって,①ないし④の構成が補充されて初めて発明として完成したものになるわけではない。このような場合,パリ条約4条Fによれば,パリ優先権を主張して行った特許出願が優先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由として,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすることはできず,ただ,基礎となる出願に含まれていなかった構成部分についてパリ優先権が否定されるのにとどまるのであるから,当該特許出願に係る特許を無効とするためには,単に,その特許が,パリ優先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことが認められるだけでは足りず,当該構成部分が,引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必要がある…。…このように解しないと,例えば,特許権者がAという構成の発明について外国出願をし,その後,その構成を含む発明Bが公知となった後に,わが国において,パリ優先権を主張し,構成Aと,前記外国出願には含まれないが,発明Bに対して新規性,進歩性が認められる構成Cを合わせた構成A+Cという発明について特許出願をした場合,当該発明は,構成Aの部分は,発明Bよりも外国出願が先行しており,優先権も主張されており,かつ,構成Cは,発明Bに対し新規性,進歩性が認められるにも関わらず,前記外国出願に含まれない構成Cを含んでいることのみを理由として構成Aについての優先権までが否定され,特許出願が拒絶されるという結論にならざるを得ないが,そのような結論は,パリ条約4条Fが到底容認するものではないと考えられるからである。なお,①ないし④も,それぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであるから,引用発明に対する新規性, 進歩性は,それぞれの構成について,別個に問題とする必要がある。…甲1動画に係るツールは,前記③の構成を有している…。そして,本件発明の請求項は…前記③の構成を含む…から…本件発明は…甲1動画との関係で新規性を欠く…。したがって,パリ優先権が認められるかどうかを判断するため,さらに,構成③が,本件米国仮出願に含まれない構成であるかどうかを判断する必要がある。これに対し,甲1動画に係るツールは,前記①,②,④の構成を含むものとは認められないから,新規性が問題となる余地はなく,また,これらの構成が,甲1動画に係る発明に対して進歩性を欠くことを認めるに足りる主張立証はない。そうであるとすると,これらの構成が,本件米国仮出願に含まれない構成であるかどうかを判断するまでもなく,原告の主張は失当というべきである。…③に係る構成が,本件米国仮出願に含まれない構成であるとはいえないから,この点に関する原告の主張も失当ということになる。…本件発明は,甲1動画との関係で新規性,進歩性欠如の無効事由を有するものとは認められない。                        https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/824/089824_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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