知財高判令和2年(ネ)10052 (オプジーボ、小野薬品)

 

元京大大学院生v.小野薬品、本庶教授

*元京大大学院生の発明者性否定

⇒一審も同じ結論。メルクマールは異なる。

 

<控訴審の結論>

技術的思想の着想の具体化に至る過程の個々の実験の遂行に研究者として現実に関与した者であっても,その関与が,発明の技術的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認められないときは,発明者に該当しない。

 

(控訴審の判旨抜粋)

特許法2条1項は,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定し,同法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定している。これらの規定によれば,特許発明の「発明者」といえるためには,特許請求の範囲の記載によって具体化された特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し,又は,その着想を具体化することに創作的に関与したことを要するものと解するのが相当であり,その具体化に至る過程の個々の実験の遂行に研究者として現実に関与した者であっても,その関与が,特許発明の技術的思想との関係において,創作的な関与に当たるものと認められないときは,発明者に該当するものということはできない。

 

(一審の判旨抜粋)

…①本件発明の技術的思想を着想したのは,被告Y及びZ教授であり,②抗PD-L1抗体の作製に貢献した主体は,Z教授及びW助手であり,③本件発明を構成する個々の実験の設計及び構築をしたのはZ教授であったものと認められ,原告は,本件発明において,実験の実施を含め一定の貢献をしたと認められるものの,その貢献の度合いは限られたものであり,本件発明の発明者として認定するに十分のものであったということはできない。…

本件実験のほぼ全てを原告が行ったことについては,当事者間に争いがないところ,原告は,化学の分野においては,発明の基礎となる実験を現に行い,その検討を行った者が発明者と認められるべきであると主張する。しかし,…発明者と認められるためには,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に,発明者のために実際に実験を行い,データの収集・分析を行ったとしても,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,発明者ということができないと解すべきである。原告が本件発明に係る技術的思想に関与せず,抗PD-L1抗体の作製・選択及び本件発明を構成する実験の設計・構築に対する貢献もごく限られたものであったことは,前記判示のとおりであり,これによれば,原告の本件発明における役割は補助的なものであったというべきである。

 

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/178/090178_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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