東京地判

平成28年(ワ)42833

平成29年(ワ)21803

平成30年(ワ)27979

【磁気記録媒体】<沖中>

 

①充足

*数値限定発明~充足

*原告の測定は適切、被告の測定は不適切。

⇒被告の測定はフォーカスがなく、倍率が低過ぎた。

~明細書に記載された測定機器の性能や、条件表が参照された。

 

②損害論

*海外で販売されたOEM製品についても特許法102-2の推定が及んだ。

Cf.大地H21(ワ)15096

Cf.大地H19(ワ)2076

「一連の行為の一部が形式的には被告OEM製品の輸出後に行われたとしても,上記一連の行為の意思決定は実質的には被告OEM製品が製造される時点で既に日本国内で行われていたと評価することができる。」

 

 

(判旨抜粋)

【請求項1】バックコート層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度は20000~80000n㎥の範囲であ…ることを特徴とする磁気記録テープ

 

ア 原告は,被告製品のバックコート層表面の10μmピッチにおけるスペクトル密度が30903n㎥~55440n㎥の範囲であるとする非接触光学式粗さ測定機による測定結果…を提出し,一方,被告らは,同スペクトル密度が5799n㎥~19540n㎥の範囲であるとする同測定機による測定結果…を提出するとともに,同スペクトル密度が構成要件1Cに規定する数値範囲を上回っているとする原子間力顕微鏡による測定結果…を提出する。…

イ 原告の提出する測定結果の信用性について

(ア)…Wyko社製HD2000及び同社製NTシリーズの測定器においては最大倍率である50倍の対物レンズを選択すべきであること,測定に際しては測定機のキャリブレーションを行った上で,対物レンズを調整すること(測定サンプルの表面に対物レンズのフォーカスを合せた状態で,かつ,コントラストの高い干渉縞が発生する状態(測定サンプル表面からの反射光と参照面からの反射光の光路長がほぼ等しくなるように設定された状態)となるように参照面の位置を調整すること)が必要であることが認められる。この点,被告ら自身も,上記の対物レンズの調整自体が必要であることは認めている…。

そして,甲…の各測定においては,いずれも50倍の対物レンズを使用しており,また,測定機のキャリブレーションを行った上で,対物レンズの調整を行っている…。…したがって,上記各測定結果は信用することができる。

(イ) なお,甲…の各測定においては,測定機器として,Wyko社製非接触光学式粗さ測定機「HD2000」が使用されているところ,同測定機については平成15年にメーカーによるサポートが終了し…その後はメーカーによるサポートを受けていない…。もっとも,ブルカー社によれば,原告保有の上記「HD2000」は,光学系が良好なため磁気テープでのPSI測定(50倍対物+0.5倍中間レンズ)を用いて正確なPSDを測定することが可能な状態である旨が確認されており…,結果としてその他の信用できる測定結果…と同様の測定結果となっていることからすれば,測定に問題はないものと認められる。…

ウ 被告らの提出する測定結果の信用性について

(ア) 非接触光学式粗さ測定機による測定について

被告らは,非接触光学式粗さ測定機による被告製品のバックコート層表面のスペクトル密度の測定として,乙…の各測定結果を提出する。…いずれの測定においても対物レンズの調整が行われたものとは認められない。また,…対物レンズとして5倍か10倍のレンズが使用されているものと認められる。そうすると,被告らの提出する上記各測定は,いずれも適切な測定条件によってなされたものとは認められないから,その結果はいずれも信用することができない。

(イ) 原子間力顕微鏡による測定について

被告らは,測定対象の10μmピッチにおけるスペクトル密度をより正確に測定する場合には,非接触光学式粗さ測定機ではなく,原子間力顕微鏡を用いた測定の方が適切であると主張し,原子間力顕微鏡により被告製品のバックコート層の10μmピッチにおけるスペクトル密度を測定した結果,いずれも構成要件1Cに規定する数値範囲を上回っている…と主張する。

しかしながら,…明細書の記載からは,「10μmピッチにおけるスペクトル密度」を,原子間力顕微鏡を用いて測定する必要性は認められず,原子間力顕微鏡を用いて測定する方が適切であるとする理由も認められない。…

 

…被告OEM製品の…販売行為は,形式的には全て被告SSMMが被告OEM製品を海外に輸出した後に行われている…。しかしながら,被告OEM製品は…被告ら…が,本件OEM供給先…の発注を受けて製造し,本件OEM供給先に対してのみ販売することが予定されていたものであるから,…一連の行為が行われた際には,その前提として,当然,当該製品の内容,数量等について,被告らと本件OEM供給先との密接な意思疎通があり,それに基づいて上記の被告SSMMによる日本国内での製造と輸出やその後における被告らによる販売が行われたことを優に推認することができる。そうであれば,上記一連の行為の一部が形式的には被告OEM製品の輸出後に行われたとしても,上記一連の行為の意思決定は実質的には被告OEM製品が製造される時点で既に日本国内で行われていたと評価することができる。…特許法102条2項の推定が及ぶと解すべきであり,このように解しても,我が国の特許権の効力を我が国の領域外において認めるものではないから,属地主義の原則とは整合するというべきである。

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/193/089193_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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