東京地判平成29年(ワ)第24598号「セルロース粉末」事件<柴田J>
*実施可能要件とサポート要件とで結論が分かれた珍しい事例
(実施可能要件〇)…
⇒クレームアップされた具体的な本件加水分解条件で測定できるか否かが問題とされた。
(サポート要件×)
⇒発明の詳細な説明に記載された原料パルプのレベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題とされた。
【請求項1】・・・平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするセルロース粉末。
(判旨抜粋)
本件発明…は,…2.5N塩酸,15分,沸騰温度という具体的な本件加水分解条件で測定された重合度(平均重合度)をレベルオフ重合度とするものである(そのような具体的な本件加水分解条件で測定されることを前提として実施可能要件を充足する。)。したがって,本件では,本件加水分解条件という具体的な条件で加水分解された後に測定されるレベルオフ重合度について,優先日当時,当業者が,技術常識に基づいて,発明の詳細な説明に記載された原料パルプのレベルオフ重合度と,原料パルプを加水分解して得られたセルロース粉末のレベルオフ重合度とが同一であると認識することができるかが問題となる…。
発明の詳細な説明の実施例2ないし7のセルロース粉末は,…原料パルプを…加水分解したものであり,天然セルロースを温和な条件で 加水分解したものといえる。…優先日当時,当業者が,本件明細書に記載され た原料パルプのレベルオフ重合度とそこから加水分解して生成されたセルロース粉末の本件加水分解条件によるレベルオフ重合度が同じであると認識したと認めることはできない。また,発明の詳細な説明の実施例は,具体的な原料パルプから明細書記載の特定の条件の加水分解,攪拌,噴霧乾燥を経て得られたセルロース粉末である。当業者が,優先日当時,技術常識に基づいて,記載されている当該原料パルプのレベルオフ重合度に基づいて,上記具体的な条件で得られたセルロース粉末について,本件加水分解条件によるレベルオフ重合度の値を認識することができたとも認められない。…したがって,本件明細書の発明な詳細には,本件特許請求の範囲に記載された要件を満たす実施例の記載はないこととなる。そうすると,本件明細書の発明な詳細において,特許請求に記載された本件差分要件の範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者 において認識できる程度に具体的な例が開示して記載されているとはいえない。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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