東京地判平成29年(ワ)44053【抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法】<山田>

 

①サポート要件×

*明細書中の記載が、発明の用途に対応するとは認められなかった。

⇒課題云々ではなく、発明の用途の記載又は示唆がないとされた。

「【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用される化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。」

 

②非充足

*被告製剤の添付文書から、用法・用量が特許発明と異なる

「被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,…「CVP」を充足するとはいえない。…」

 

 

 

(判旨抜粋)

【請求項1】リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである,上記医薬組成物。

 

…抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体として示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また,【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにとどまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとより,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。…リツキシマブを含む医薬組成物について,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期を特定した用途発明であるところ,【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用される化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。…

 

…本件原出願日前に発行された多数の文献の記載に照らせば,原告らが指摘する文献の多くは,多様な化学療法が研究される中で,一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,1日目にのみ投与するものであるとして,シクロホスファミドの投与時期によって区別されていたと認めるのが相当である。

…被告製剤の添付文書には,用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨床成績として,国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,R-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたことが記載されている。…被告製剤の添付文書に記載されているR-CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するとともに,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンであると認められる。

そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/838/088838_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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