東京地判平成29年(ワ)36506<佐藤>

(LINEふるふる事件)

 

①副引例から「GPS検索機能」のみを抽出して主引例に適用するロジックが否定され、同適用は阻害要因があるとして進歩性が認められた事例。

②充足論がされていない被告サービスは損害賠償の対象とならず、「関係があっても希薄である」売上げは相当因果関係が否定され、3項の損害賠償の対象とならないと判断された事例。

 

<1>進歩性

 

*副引例からGPS検索機能のみを抽出して主引例に適用するロジックが否定され、適用は阻害要因があるとして進歩性が認められた。

 

「…相手に重要な個人情報を認知されることなく…」を目的とする乙5発明の技術に適用するには阻害要因がある…。

 

⇒副引例(乙42~45)の個人情報を通知する構成は採用せず、「GPS検索を用いてユーザ端末間の距離を検知する」という技術だけを抽象化して副引用発明(ないし周知技術)として認定した上で、この抽象化された副引用発明(ないし周知技術)を主引例(乙5)に組み合わせるというロジックを正面から採り上げていない?

 

 

<2>損害論

 

一般論として、特許法102条3項の推定は、損害「額」の推定までであり、損害の存在は特許権者に主張・立証責任がある。

また、「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額」とは、特許発明の実施に関係する「売上高」×「相当実施料率」という計算式により計算されるところ、本判決は、3項でいう「売上高」は、特許発明の実施(『ふるふる』による友だち登録)と「相当因果関係のある範囲の売上高に限定される」と判示した上で、その範囲について、被告サービスごとに認定・判断した。

本件では、大別して2つの争点があり、何れも被告有利に判断された。

 

①「その余の友だち登録手段による友だち登録等」は、充足論がされていない以上、損害賠償の対象でない。

 

⇒例えば、被告製品が10種類存在したときにそのうち1種類を代表として充足論を議論し、その結論がその他9種類にも及ぶという場合も多くある。本事案において、その余の被告サービスとの関係がどのようなものであり、どのような主張方針、訴訟指揮であったか要研究である。

 

 

②本件機能による友達登録と「関係がないか,関係があっても希薄である」被告サービスは、相当因果関係なし。損害賠償の対象でない。

 

⇒判決文が「関係がないか,関係があっても希薄である」と表現としており、特に、「関係があっても希薄」とされる(「相当因果関係」が否定され、損害賠償の対象とならない)境界線を探ることが今後の特許実務において極めて重要である。

 

 

 

(判旨抜粋)

<1>

相違点2…,相違点3…は,本件各発明が,GPS検索手段により,ユーザ端末の位置情報を取得し,該位置情報に基づいて所定時間中に所定距離内に位置するユーザ端末が検索されたことを必要条件として交流先のリストに追加する交流先追加処理を行うのに対し,乙5発明は,利用者同士の出会い支援装置11間での近接無線通信に基づいて相手IDのリストに追加している点の相違に関するものである。…被告が挙げる乙43~45公報に記載の技術は,いずれも,氏名,住所,電話番号,メールアドレスなどの個人情報を相手方に知らせることが前提となっているものであるから,これらの技術を,『出会いの初期段階においては相手に重要な個人情報を認知されることなく,利用者相互間,特に男女相互間で趣味嗜好が一致する出会いの可能性を向上させること』を目的とする乙5発明の技術に適用するには阻害要因がある…。

 

 

<2>

原告は,損害賠償の対象は,『ふるふる』による友だち登録及びこれにより友だちとなったユーザとの交流等に限定されず,QRコードやID検索等の他の友だち登録も含み,また,海外企業を含む連結売上高を対象とすべきであると主張する。…しかし,原告は,本訴提起当初から,一貫して『ふるふる』による友だち登録及びその後の交流が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張をしていたのであり…,その余の友だち登録手段による友だち登録等が本件各発明の技術的範囲に属する旨の主張立証は侵害論の対象とされていないので,損害賠償の対象となるのは,『ふるふる』による友だち登録と相当因果関係のある範囲の売上高に限定されるというべきである。…

アカウント広告を構成する各売上げの内容に照らすと,これらの売上げは,いずれも,一般のユーザ同士の本件機能による友だち登録との関係がないか,関係があっても希薄であるというべきである。そうすると,アカウント広告の売上げは,本件の損害賠償の対象とならない…。LINE Out(同㋗)については,被告アプリのユーザ同士であれば,被告アプリ内での無料通話の利用が可能であることからすれば,LINE Outのサービスを利用するのは,被告アプリのユーザがユーザでない者に対して電話を掛ける場合であることが通常であると推認されるから,同様に,本件機能による友だち登録及びその後の交流とは関係がないか,関係があっても希薄であるというべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/479/090479_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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