東京地判平成28年(ワ)25436「L-グルタミン酸の製造方法」事件<矢野>

 

<損害論>

 

*譲渡人と申出者とが異なっても、一定の関係にある場合は、「譲渡の申出」成立!!

 

*「譲渡」が外国でも譲渡の申出が成立した事案

⇒外国での売上高を基準として102-2適用!!

(外国販売分はいずれも日本の買主に対する販売であり,引渡し自体は船積みの際になされるとしても,その後に買主側によって日本国内に輸入されることが予定されていた、という特殊事情があった。~一般化は要注意!!

 

 

(判旨抜粋)

…CJインドネシア販売分について,本件MSGの譲渡自体が日本国内で行われているとは認められないものの,…CJグループにおける被告とCJインドネシアとの関係,…CJインドネシア販売分の注文書が被告宛に提出され,被告を経由してCJインドネシアに送付されることがあったこと,…被告とCJインドネシアとの間でCJインドネシア販売分の売上高の一部を被告に支払う旨の本件コミッション契約が締結され ていたこと,…CJインドネシア販売分について,被告が日本国内での本件MSGのサンプル配送や不良品の回収を行っていたこと,…被告の会計処理において…CJインドネシア販売分に係る経費が計上されていたことからすれば,被告各製法使用期間中のCJインドネシア販売分について,被告は,日本国内において,CJインドネシアと共同して,CJインドネシア販売分に係る営業活動を行っていたものと認めるのが相当であり,被告による譲渡の申出があったと認められる。そして,…被告各製法使用期間中に製造された本件MSGは被告各製法のいずれかによって製造されたもの(被告各製品)であるから,当該期間中の被告による本件MSGの譲渡の申出は,被告による本件発明1又は本件発明2の実施(特許法2条3項3号)に当たる。…

 

(a)被告は,「譲渡の申出」は,将来の譲渡人である売主によって行われる行為であり,広告宣伝等の申出行為を行う者が譲渡をする者と異なっている場合は譲渡の申出は成立しないとして,CJインドネシア販売分について,売主ではない被告が何らかの関与をしたとしても,当該行為は譲渡の申出には当たらないと主張する。しかしながら,譲渡の申出が譲渡とは別個に実施行為とされている趣旨からすれば,譲渡の申出をする行為が譲渡人である売主によるものではないとしても,当該売主と一定の関係を有する者による行為であるなどの事情があれば,当該申出行為を譲渡の申出と解し得ると考えるべきである。…CJインドネシアと被告とは,同じ企業グループに属している上,CJインドネシア販売分について,本件コミッション契約を締結して利益の分配を行うなどの密接な関係にあったといえるから,CJインドネシア販売分の売買契約の主体がCJインドネシアであって被告ではないことは,被告の…関与が本件MSGの譲渡の申出に当たるとの認定を妨げるものではない。

 

(b)被告は,特許法上の「譲渡」は日本国内での譲渡を意味し,その準備行為である「譲渡の申出」も日本国内での譲渡のための申出を意味するから,CJインドネシア販売分についての被告の行為は譲渡の申出には当たらないとも主張する。確かに,…CJインドネシア販売分に係る本件MSGの買主への譲渡は日本国外において行われているものと認められるものの,CJインドネシア販売分はいずれも日本の買主に対する販売であり,本件MSGの引渡し自体は船積みの際になされるとしても,その後に本件MSGが買主側によって日本国内に輸入されることが予定されているものであった。譲渡の申出が譲渡とは別個に実施行為とされている趣旨からすれば,CJインドネシア販売分に係る本件MSGのように,日本国内での営業活動の結果,日本の買主に販売され,日本国内に輸入される商品について,その買主への譲渡が日本国外で行われるか,日本国内で行われているか否かの違いのみで,当該営業活動が,日本における譲渡の申出に当たるかどうかの結論を異にするのは相当ではなく,…日本国内において被告とCJインドネシアが共同してCJインドネシア販売分に係る営業活動を行うことは,被告による「譲渡の申出」に当たると解するのが相当であり,この点の被告の主張は採用できない。…

 

被告は,CJインドネシア販売分に係る実施行為である「譲渡の申出」による損害額はCJインドネシア販売分の売上高に基づいて算出されるべきではなく,「譲渡の申出」に固有の範囲に留まるべきであると主張する。しかしながら,…CJインドネシア販売分について,被告とCJインドネシアには共同不法行為が成立するため,損害額の算定に当たっては,被告のみならず被告CJインドネシアの利益も考慮されること,…CJインドネシア販売分はいずれも日本の買主に対する販売であり,買主への引渡し後に日本国内に輸入されることが予定されているものであったことからすれば,「譲渡」自体が日本国外で行われているとしても,CJインドネシア販売分の売上高に基づいて算出される被告らの利益は,特許法102条2項の適用において,日本国内での「譲渡の申出」によって被告らが受けた利益と認めるのが相当であり,被告の上記主張は採用できない。

 

 

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/053/090053_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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