東京地判平成28年(ワ)11475【第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体】<嶋末>

 

*効果を機能と捉え、機能的クレームが本件発明とは異なる課題解決手段により効果が齎されるから非充足とされた事例

 

*抽象的にクレームアップした効果を、明細書に基づいて、具体的な数値範囲を認定した⇒非充足

 

控訴審H30(ネ)10043<森>も同じ論理

 

 

(判旨抜粋)

【請求項】 第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,凝血促進活性を増大させる,抗体または抗体誘導体(ただし…を除く)。

 

…特許請求の範囲が…抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。ただし,このことは,特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定するものではなく,明細書及び図面の記載から当業者が実施し得る構成であれば,その技術的範囲に含まれるものと解すべきである。

…バイスペシフィック抗体自体は,抗体誘導体の一態様として明記されている…。そして,凝血促進活性を増大させるモノスペシフィック抗体からの誘導体も複数作製されており…,本件出願日当時の技術常識によれば,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するバイスペシフィック抗体を作製可能であり,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体から誘導されたバイスペシフィック抗体が,モノスペシフィック抗体が有する凝血促進活性を増大させる作用を維持できると予測できたと認められる。そうすると,バイスペシフィック抗体についても,モノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれると解される。…他方,…第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものでない場合には,別異に解すべきである。…たとえ,それ自体が第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる効果を有するものであったとしても,本件各発明の課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が実施できるものとはいえないというべきである。…

…「凝血促進活性を実質的に増大させる」とは,少なくともネガティブコントロールとの比が2程度を超えるものでなければならないものと解されるところ,…ネガティブコントロールとの比は,1.36から1.48であったこと(…)からすると,Qhomoは第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるモノスペシフィック抗体とはいえない。…

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/738/087738_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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