平成31年(行ケ)10031【低温靭性に優れたラインパイプ用溶接鋼管】<高部>

 

*関連する数値限定は併せて判断する

 

*本願発明と引用発明とは課題が異なる

⇒数値を置き換える動機付け無し

 

*引用発明の数値は、特定の条件で最適化されたもの

⇒当該条件を変更する動機付けなし

 

 

(判旨抜粋)

【請求項1】…(1)式を満足し,/前記鋼管の周方向を引張方向とした際,前記鋼板の引張強度が570~825MPaであることを特徴とする低温靭性に優れたラインパイプ用溶接鋼管。0.1≦L2/L1≦0.86 ・・・ (1)

 

引用発明は,引張強度が850MPa以上1200MPa以下という条件の下で,W2/W1の値の最適範囲を特定したものであるから,引用発明において,引張強度とW2/W1の値は相互に関連しているため,相違点1と相違点2を併せて判断する。…

本願発明と引用発明とは,本願発明が,外面溶接熱影響部における低温靭性の向上を課題として,L2/L1の上限及び下限を規定しているのに対し,引用発明は,内面溶接金属内におけるシーム溶接部に発生する低温割れの防止を課題として,W2/W1の上限及び下限を規定しているのであるから,両者はその解決しようとする課題が異なる。また,その課題を解決するための手段も,本願発明は,外面熱影響部において,外面入熱を低減して粒径の粗大化を抑制するものであるのに対し,引用発明は,先行するシーム溶接(内面)の溶接金属に発生する溶接線方向の引張応力を低減するものである。…

そして,溶接ビード幅中央の位置における溶接金属の厚さであるW2/W1と,母材表面から内外面溶融線会合部までの距離の比であるL2/L1とは,余盛部分の厚さや,内外面溶融線会合部から外面溶接金属の先端までの距離を考慮するか否かにおいて,技術的意義が異なるところ,引用発明においてW2/W1に替えてL2/L1を採用するなら,余盛部分の厚さや内外面溶融線会合部から外面溶接金属の先端までの距離を含む溶接金属の厚さが考慮されないことになる。また,W2/W1が一定であっても,内面側溶接金属の溶け込み量が変化すると,L2/L1は変動するから,W2/W1とL2/L1とは相関がなく,W2/W1に対してL2/L1は一義的に定まるものではない。以上によれば,引用発明のW2/W1をL2/L1に置き換える動機付けがあるとはいえないというべきである。…

 

引用発明のW2/W1は,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MPa以下という条件下での溶接金属内での残留応力を根拠として最適化されたものであり,引用例1には,これを850MPa未満のものに変更することの記載も示唆もない。

そうすると,本願出願時において,鋼管の周方向に対応する引張強度が600~800MPaの鋼板について,その突合せ部を内外面から1パスずつサブマージドアーク溶接することで,低温靭性に優れたラインパイプ用溶接鋼管を製造することが知られていたこと(…)を考慮しても,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MPa以下という条件下でW2/W1を最適化した引用発明において,鋼板の引張強度が570~825MPaのものに変更することについて,動機付けがあるとはいえない。

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/198/089198_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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