平成30年(行ケ)10076【豆乳発酵飲料】<高部>

 

 

*無効審判時と異なる一致点/相違点を主張OK

⇒無効審判時の相違点4個を1個にまとめて主張した‼

 

「審判において審理判断された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできない」

 

 

*出願日後に製造された物の追試で進歩性×

 

「測定対象となった製品はいずれも本件特許出願日後に製造されたものと見られるところ,消費者の嗜好が変動し得ることを考慮しても,平成25年3月の本件特許出願後の2年ないし3年の間に,この点につき有意な粘度条件の変動があったとは考え難く,また,これをうかがわせる具体的な事情もない。」

 

 

 

(判旨抜粋)

…相違点1-2:本件発明1では,7℃における粘度が5.4~9.0mPa・sであるのに対して,引用発明1-1では,粘度が不明である点。…

 

特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった公知事実を主張することは許されないが(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),審判において審理判断された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが許されないとすることはできない。本件特許の特許権者である原告は,もとより審判で審理判断されなかった公知事実を無効原因として主張するものではなく,審判において審理判断された公知事実と審判の対象とされた発明との相違点について本件審決と異なる主張をするにすぎないものであって,これを許されないものとすべき事情はない。…

イ 相違点1-2について

(ア) 平成22年3月に,キッコーマングループにより「カルシウムの多い豆乳飲料」及び「豆乳飲料いちご」が販売されていたこと(甲10),本件特許出願日より前の同年5月24日にキッコーマン飲料株式会社により「カルシウムの多い豆乳飲料」が販売されていたこと(甲11),同じく本件特許出願日より前の平成24年3月12日に,同社により「豆乳飲料 グレープフルーツ」が販売されていたこと(甲12)が認められる。

平成27年3月3日付け「豆乳飲料の性状確認試験」(甲13)は,上記3製品(ただし,製造日はいずれも平成27年2月)につき,本件明細書記載の方法により粘度,沈殿量及びpHを測定したものであるところ,粘度については,「豆乳飲料 グレープフルーツ」が7.0mPa・s,「豆乳飲料いちご」が8.5mPa・s,「カルシウムの多い豆乳飲料」が7.8mPa・sであったことが記載されている。この測定結果につき,その信用性に疑義を抱くべき具体的な事情はない。

平成28年9月9日付け「発酵乳入り清涼飲料水の測定」(甲17)は,市販の発酵乳入り清涼飲料(発酵乳入り清涼飲料水。同年8月25日購入)について,本件明細書記載の方法で粘度,沈殿量及びpHを測定したものであるところ,粘度は5.74mPa・sであったことが記載されている。この測定結果につき,その信用性に疑義を抱くべき具体的な事情はない。

これらによれば,消費者の受け入れられる飲料という観点から見た場合,7℃における粘度が5.4~9.0mPa・sであることは,そのような飲料として普通の範囲内に属すると認められる。なお,甲13及び17の測定対象となった製品はいずれも本件特許出願日後に製造されたものと見られるところ,消費者の嗜好が変動し得ることを考慮しても,平成25年3月の本件特許出願後の2年ないし3年の間に,この点につき有意な粘度条件の変動があったとは考え難く,また,これをうかがわせる具体的な事情もない。

なお,平成30年7月6日付け「実験成績証明書」(甲55)によれば,現在販売されている4つの豆乳発酵飲料…につき,本件明細書記載の方法で粘度(mPa・s)を測定したところ,いずれも10.0以上との測定結果が示されている。しかし,測定対象とされる商品の製造時期その他の条件により,同一銘柄の商品であっても測定結果に差異を生じ得るから…,これをもって直ちに,本件特許出願日において5.4~9.0mPa・sの粘度範囲を設定することを阻害するに足りる事情ということはできない。…

7℃における粘度が5.4~9.0mPa・sである豆乳飲料や発酵乳飲料は,一般に販売され,消費者に受け入れられていた粘度範囲であり(上記(ア)),その下限値である5.4mPa・sも,本件各発明の課題であるタンパク質等の凝集の抑制と何らの関係も有しない…。そうすると,当業者は,豆乳飲料や発酵乳飲料等を包含する引用発明1-1の酸性蛋白食品の粘度の範囲として「5.4~9.0mPa・s」の範囲を採用することを容易に想到し得たものといえる。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/529/088529_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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