平成28年(行ケ)10257【携帯情報通信装置】<森>

 

*明細書中で、2つの段落に独立に記載した事項を併せた追加⇒新規事項追加

 

「段落【0143】には,段落【0117】,【0118】に記載されているような,ウェブページの閲覧やテレビ動画の表示の場合との関連性を示唆する記載はない」

 

(判旨抜粋)

ウ 原告は,本件発明特定事項の機能Aは,当業者によって,本件明細書の段落【0117】,段落【0118】,段落【0120】及び段落【0143】などの記載を総合することにより導かれると主張する。
(ア) しかし,段落【0117】は,ウェブサーバから画像データファイルをダウンロードすることについての記載ではなく,ウェブページを閲覧する場合についての記載であり,同段落の「ページ画像」とは,ウェブページをブラウザで表示した画像であって,画像データをデータファイルとしてダウンロードする場合に関する記載ということはできない。
また,同段落には,閲覧しているウェブページがLCDパネル15Aの画面水平解像度よりも広い固定幅レイアウトを採用する場合に,中央演算回路1_10A1が,その固定幅と同じ水平画素数を有するページ画像の描画命令を生成し,VRAM1_10Cに書き込むとともに,グラフィックコントローラ1_10Bが,LCDパネル15Aの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータを切り出してLCDドライバ15Bに送信することが記載されているが,「その結果として,LCDパネル15Aにおいてページ画像がスクロール表示される。」のであり,LCDドライバ15Bに送信される信号は,画像の一部分に対応するビットマップデータの信号であるから,この場合には,本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像から,ディスプレイパネルの画面解像度と同じ画像への解像度の変更が行われているということはできない。
次に,段落【0118】に記載されている事項は,携帯電話機1がテレビ番組の視聴用に使用される場合のグラフィックコントローラ1_10BやVRAM1_10C等の機能であり,携帯電話機1により表示される「画像」は,テレビ受信用アンテナ112Aで受信した「テレビ番組の画像」であるから,画像データをデータファイルとしてダウンロードする場合とは異なるというべきである。
そして,段落【0143】には,段落【0117】,【0118】に記載されているような,ウェブページの閲覧やテレビ動画の表示の場合との関連性を示唆する記載はない上,段落【0143】の記載は前記のとおりであって,画像データファイルの解像度を変更することなく表示することが記載されているから,段落【0143】の記載に接した当業者が,その記載を段落【0117】,段落【0118】の記載と関連付けて,ウェブサーバから画像データファイルをダウンロードして画像を表示する場合に画像ファイルの解像度を変更することが記載されていると理解するとは考えられない。
(イ) 段落【0120】には,「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画信号をデータファイルに変換して保存したり,該保存したデータファイルを読み出して必要な処理を行う」,「画像データファイル及び/又は音声データファイルは,ウェブサイトにアクセスし,…受信・変換されたデジタル信号を,バス19経由で中央演算回路1_10A1が受信し,必要な変換を行ってフラッシュメモリ14Aに書き込むことによっても保存することができる。」との記載があるが,段落【0120】には,受信した「デジタル音声信号及び/又はデジタル動画信号」を携帯電話1においてデータファイルに変換して保存したり,それを読み出して再生することが記載されているにすぎず,この記載と前記のような内容の段落【0143】の記載を併せて見たとしても,当業者が,ウェブサーバから本来解像度が携帯電話機のディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データファイルをダウンロードして画像を表示する場合に,VRAMからディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータを読み出し,読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号を生成し,これをディスプレイ制御手段に送信する機能を想起するとは考えられない。
(ウ) そうすると,原告の主張する本件明細書の各記載を総合しても,訂正事項7に係る「前記ウェブサーバから「本来解像度がディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データファイル」をダウンロードして画像を表示する場合に,前記VRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し,「該読み出されたビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し,該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能」が導かれるとは認められず,本件明細書には他に同機能の実現についての記載又は示唆は存在しない。
エ したがって,訂正事項7は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。

 

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/162/087162_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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