平成27年(ネ)10036【ピタバスタチンカルシウム塩の結晶】<高部>
*結晶多形の構造を15個の回析角(小数点第2位)で特定した
⇒±0.2°の誤差は許容されず、非充足
(=原審・平成26年(ワ)3343<長谷川>)
「15本のピーク全ての回折角の数値がその数値どおり一致することを要し…」
(判旨抜粋)
本件各発明の構成要件C・C’においては,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有することをもって規定されており,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶が15本のピークの小数点以下2桁の回折角(2θ)を有することにより特定されている。…特許請求の範囲…上記回折角の数値に一定の誤差が許容される旨の記載や,上記15本のピークのうちの一部のみの対比によって特定される旨の記載はない。…明細書中には,結晶形態Aに係る回折角について,その数値に一定範囲の誤差が許容されることや15本のピークのうちの一部のみによって結晶形態Aを特定することができることをうかがわせる記載は存しない。以上によれば,特許請求の範囲の記載に加え,本件各明細書の記載を参酌したとしても,本件各発明の構成要件C・C’を充足するためには,15本のピーク全ての回折角の数値がその数値どおり一致することを要し,その全部又は一部が一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶又はその保存方法は,本件各発明の技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である。…
控訴人は,…当業者は,技術常識に基づき,本件各発明の対象である結晶形態Aと同一の結晶形態か否かを,構成要件C・C’に規定された回折角の数値そのものの比較ではなく,実測値の変動がピークの同一性の認定に妨げとならない範囲,すなわち「±0.2°以内」において,明細書に開示された当該ピークと他のピークの相対的な位置関係や強度も考慮して,同一性を認定し,それに基づいて,結晶形態の同一性を認定するものであるから,構成要件C・C’の回折角を充足するには,測定対象試料から測定されたピークの回折角が,構成要件C・C’に規定された回折角の全てのピークの数値と小数点以下2桁まで一致することを要するものではない旨主張する。しかし,本件各発明の特許請求の範囲は…「結晶形態A」という記載は一切ない。特許発明の技術的範囲は,明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであり(特許法70条),特許請求の範囲に何ら記載のない「結晶形態A」という概念をもって本件各発明の技術的範囲の属否を判断すべきであるとする控訴人の主張は,失当である。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/579/085579_hanrei.pdf
https://www.nakapat.gr.jp/wp-content/uploads/2018/10/%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%98%E5%B9%B4%E8%A1%8C%E3%82%B1%EF%BC%91%EF%BC%90%EF%BC%92%EF%BC%97%EF%BC%98%E5%8F%B7%E3%80%8C%E3%83%94%E3%82%BF%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%81%AE%E6%96%B0%E8%A6%8F%E3%81%AA%E7%B5%90%E6%99%B6%E8%B3%AA%E5%BD%A2%E6%85%8B%E3%80%8D%E4%BA%8B%E4%BB%B6-%E8%A6%81%E7%B4%84-1.pdf
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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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