平成22年(行ケ)10122<飯村>【オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤】

 

*数値限定という構成自体の容易想到性を問題とすることを、一般論として述べた。

⇒容易想到性否定。(顕著な効果を判断せず)

~裁判所の傾向に沿っている。

 

「相違点に係る…構成に到達することが容易であったか否かを検討する…。…数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても,その判断手法において,何ら異なることはなく…」

 

(判旨抜粋)

【請求項1】 濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6の…腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤

…注射剤のpHに関する本件特許出願時の技術常識は,注射剤のpHは血清となるべく等しいことが好ましいものの,薬物によってはアルカリ性において沈殿を生ずるから,薬品の安定のためpHを下げて微酸性に保つ場合があること,注射薬では,血清と同一pH(7.2~7.4)付近にできない場合が相当多いこと,注射薬のpHはどちらかといえば酸性側のものの方がアルカリ性側のものより多いことが認められる。他方,甲10には,オキサリプラティヌムの2.0mg/mlの水溶液のpHは6.7であり(…),加速安定性試験(…)において,調合物1の安定性は良好でないとの結果が記載されていること(…),甲11には,オキサリプラティヌムの2.0mg/mlの水溶液のpHは6.6であり,これを20ないし25℃間の温度,遮光下で貯蔵した場合に,18時間後に,毒性に特に関連しているジアクオDACHプラチナ二量体(Ⅲ)の実質的な形成が注目されたとの結果が記載されていること(…)から,甲10,11には,本件発明1で特定されたpHの範囲である4.5ないし6よりも,やや高いpHの領域におけるオキサリプラティヌム水溶液の安定性が良好でないことが記載されている。

以上認定した事実を総合すると,本件特許出願時の技術水準に照らして,本件発明1で特定したpH4.5ないし6という微酸性領域の値を採用することが容易であったということはできない。…

原告は,数値限定発明において容易想到性でないとされるためには,数値範囲の全般において効果が顕著に優れているとの臨界的意義が示されることを要すると解されるが,本件発明1は,そのような効果が示されていないので,本件発明1が容易想到でなかったとした審決の判断には誤りがあると主張する。しかし,…一般に,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,当該発明と特定の先行発明とを対比し,当該発明の先行発明と相違する構成を明らかにして,出願時の技術水準を前提として,当業者であれば,相違点に係る当該発明の構成に到達することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くのが合理的である。そして,当該発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。この点は,当該発明の相違点に係る構成が,数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても,その判断手法において,何ら異なることはなく,当該発明の技術的意義,課題解決の内容,作用効果等について,他の相違点に係る構成等も含めて総合的に考慮すべきであることはいうまでもない。

 

http://tokkyo.hanrei.jp/hanrei/pt/9014.html

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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