大阪地判平成28年(ワ)12296【棒状フック用のカードケース】<佐藤>

 

≪損害論≫

 

不実施の共有者は1項,2項×

1項と2項の覆滅事由の考慮要素は同じ

 

「102条1項ただし書の『販売することができないとする事情』として考慮される事情は,同条2項の推定覆滅事由として考慮される事情と変わるものではなく」

 

(判旨抜粋)

…特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,同項本文において,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者の実施能力の限度で損害額と推定し,同項ただし書において,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して,侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより,従前オールオアナッシング的な認定にならざるを得なかったことから,より柔軟な損害の認定を目的とする規定であり,同項の文言及び上記趣旨に照らせば,同項が適用されるためには,特許権者は,侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ製品を販売していることが必要であると解すべきである(知財高裁平成27年11月19日判決・判タ1425号179頁等)。…

また,特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害により特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らし,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定であって,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であるから,同項を適用するための要件を,殊更厳格なものとすべきものではないが,少なくとも,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば,侵害者が受けた利益に対応する利益が得られたであろうという事情が存在することは,同項適用の前提として必要というべきである(知財高裁平成25年2月1日判決・判タ1388号77頁等)。

原告ソーグについて…特許の実施行為である「譲渡」(特許法2条3項1号)をしたと解することもできない。そうすると,原告ソーグについて前記…検討したような事情があることを基礎付ける主張立証がされたとはいえないから,原告ソーグには特許法102条1項及び2項は適用されず,同条3項のみが適用されるといわざるを得ない。…

特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」として考慮される事情は,同条2項の推定覆滅事由として考慮される事情と変わるものではなく(前掲知財高裁平成27年11月29日判決参照)…。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/947/088947_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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