大阪地判平成19年(ワ)2076【組合せ計量装置】

 

*海外顧客への売上を損害額の基礎とした

(一般論も判示した)

 

Cf.知財高裁大合議H24(ネ)10015「ごみ貯蔵機器」判決も、原告(外国法人)の海外逸失利益である

 

*存続期間満了後に訂正されたが、特許法103条の過失推定された。

 

 

(判旨抜粋)

証拠…及び弁論の全趣旨によれば,被告が,本件特許の存続期間中…,被告物件を国内向けに236台製造して販売し,外国向けに4562台製造して販売したこと,上記期間中の国内向け被告物件の売上額は9億1559万8000円,外国向けの被告物件の売上額は255億3785万9000円であること,国内向けの被告物件の売上額から売上原価を控除した粗利額は8593万8000円であり,外国向けの被告物件の粗利額は69億6541万6000円であること,被告物件の販売に係る営業費(販売費と一般管理費の合計)は国内向けの分が4億5575万9000円であり,外国向けの分が48億2903万1000円であることが認められる。…被告の限界利益の額は,被告物件の販売に係る粗利額から,被告の外国分の営業費のうち…円…を,国内分の営業費のうち…円…をそれぞれ控除して算出するのが相当である。…

本件特許権が日本国内でのみ効力を有するものであることはいうまでもないが,特許権者である原告としては,業として日本国内で本件特許発明の実施品を製造し日本国内でこれを販売することだけでなく,業として日本国内で本件特許発明の実施品を製造してこれを外国の顧客等に向けて販売(輸出)するという実施行為をする権利を専有し,これらの実施行為について本件特許権に基づく独占権を有している…。…被告は,米国では,販売会社である…YDW…を設立し,YDWを通じて被告物件の機種,仕様,付属装置の有無等の顧客の要望がまとめられた注文を受けて日本国内で被告物件を製造し,これをいったんYDWに販売した上で顧客に納品していたこと,米国以外の外国の顧客についても,米国と同様の方法で被告物件を販売していたことが認められる。かかる被告の行為が原告が有する上記独占権を侵害することは明らかであり,これにより原告が上記独占権に基づいて得ることができた利益を失ったことも明らかである。…

原告と原告の関連会社が,EP268346号特許権に基づき,被告の取引先を被告として,被告が製造販売した本件訴訟と同一の被告物件を対象として,欧州において損害賠償請求訴訟を提起しているとしても,EP268346号特許権と本件特許権とは別個の権利である上,原告は,本件訴訟において,特許法102条2項に基づいて被告が被告物件を製造販売したことにより得た利益を損害としてその賠償を求めているものであり,被告の取引先が得た利益を原告の受けた損害としてその賠償を求めるものではない。したがって,原告が日本と欧州とで同一の被告物件について二重の賠償を得ようとしているとは認められず,欧州向けの被告物件を対象とする本件における原告の請求を制限することは相当でない。…

以上に検討したとおり,被告が日本国内で製造し外国向けに販売した被告物件はいずれも本件請求に係る損害賠償の対象に含まれるというべきである。

 

 

被告は,訂正前の特許に無効理由の存在がうかがわれる場合には特許法103条の過失推定規定は適用されないとも主張する。しかし,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づく特許に無効理由があったとしても,訂正審判請求あるいは無効審判における訂正請求が行われて無効理由が回避される可能性があり,このことは,容易に予見し得るというべきである。したがって,特許法103条により過失を推定するためには,自らの行為が特許発明の技術的範囲に属する実施行為であることの予見可能性があれば足りると解すべきであって,訂正前の特許に無効理由があったとしても,それだけで特許法103条による過失の推定が覆ると解することはできない…。

民法724条は,不法行為による損害賠償請求権の期間制限(消滅時効)を定めたものであり,不法行為に基づく法律関係が,未知の当事者間に予期しない事情に基づいて発生することがあることにかんがみ,被害者による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて,消滅時効の起算点に関して特則を設けたものである。したがって,同条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当であり,同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。そして,本件のような特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権については,被害者としては,加害者による物件の製造販売等を認識していたとしても,当該物件が自己の特許発明と対比してその技術的範囲に属し,当該加害者の行為が被害者の有する特許権を侵害する行為であることを現実に認識していなければ,これによる損害の発生を現実に認識し得ず,加害者に対して損害賠償請求権を行使することができないから,「損害及び加害者を知った」というためには,加害者の行為が被害者の特許権を侵害する行為であることを現実に認識することを要するものと解するのが相当である。…

被告は,…本件和解により本件特許発明と実質的に同一の技術を対象とする米国125特許発明の実施を許諾されているところ,これは米国に輸出する目的で米国125特許発明の実施品である被告物件を日本国内で製造することをも許諾するものであるから,米国向けの被告物件は損害賠償の対象には含まれない…と主張する。(しかし、)本件和解は,実施許諾の対象となる特許権等の権利について,本件目録に記載されたもの,「自動定量計量装置に係る特許権であって,本和解成立の日までに成立するもの」及び「自動定量計量装置に係る特許出願中の権利であって,本和解成立の日までに出願公開されるもの」として許諾の対象範囲を明確に特定しており,本件特許の出願公開がされたのは本件和解成立後であるから,本件和解条項の文言からは,本件特許権が本件和解による実施許諾の対象から除外されることは明らかである。そして,特許権は各国ごとに成立する別個の権利であり,実質的に同一の技術を対象とするものであっても,各国の特許権について,それぞれの国の市場状況等に応じて,ある国では実施を許諾し,他の国では許諾しないということは当然にあり得ることであって,このことは何ら不自然なことではない上,本件和解による実施許諾の対象が記載されている本件目録においても,各国ごとに実施許諾の対象となる特許権等は分類して記載されているのであるから,原告と被告が,本件和解において,各国の特許権ごとに実施許諾をするか否かを個別に決定することを当然に前提としていたことが明らかである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/428/038428_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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