効果のクレームアップ(権利者有利)⑤

 

平成25年(行ケ)10324【誘導体磁気及びこれを用いた誘導体共振器】

 

⇒引用例が無効審判請求人の主張どおりであったとしても、1GHzでの誘電特性(Q値)が40000以上というクレームアップされた効果が相違点であるとした

 

*同日のH26(ネ)10018と結論が逆であった!

 

(判旨抜粋)

【請求項1】…1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする誘電体磁器

…仮に,甲4報告書の結果から甲1発明の試料No.35の結晶構造の確認ができたとして,甲1公報には,斜方晶型固溶体相である均一なマトリックス相と,0.07体積%のβ-Al2O3構造の第二相を有し,Q値が39000である試料No.35の誘電体磁器が開示されていると認定できると仮定すると,本件発明1とは,Q値が40000以上であるか否かの点でのみ相違することになる。念のため,この場合について検討するに,甲1公報には,…高Q値の誘電体磁器組成物を提供することを目的とすることが記載されているところ,前記認定のとおり,甲11文献によれば,β-Al2O3はQ値を低下させるものであることが知られていたから,このようなβ-Al2O3を含む上記結晶構造を有する試料No.35の誘電体磁器において,Q値を向上させるには,β-Al2O3を含まない結晶構造とすることが,当業者にとって自然な選択といえる。しかしながら,このようにβ-Al2O3を含まない結晶構造とすれば,本件発明1における結晶構造に関する構成を充たさないものとなる。また,甲4報告書の結果から,甲1公報の試料No.35の誘電体磁器が,β-Al2O3を含む上記結晶構造を有するものであることが判明したとしても,上記結晶構造を有することの技術的意義は不明であるから,Q値を向上させるにあたり,Q値を低下させるβ-Al2O3をあえて少量だけ存在させる理由も見当たらない。

また,誘電体磁器の製造方法や製造条件を調整することにより,Q値を向上し得ることが考えられるものの,上記結晶構造を有する試料No.35の誘電体磁器において,どのように調整すればQ値を向上し得るかは不明であり,さらに,そのような調整により誘電体磁器の結晶構造も変化し,本件発明1における結晶構造に関する構成を満たさないものとなってしまう場合もあると考えられる。そうすると,本件発明1は,上記結晶構造を有し,Q値が39000である試料No.35の誘電体磁器に基づいて,容易に想到することができたものとは言い難い。

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/508/084508_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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