効果のクレームアップ(権利者有利)④

 

平成24年(行ケ)10373【半導体装置】

 

「甲2文献に接した当業者は,原出願日当時の技術水準に基づき,引用発明において本件発明1に係る構成を採用することにより,バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは,予測し得なかった」

 

*効果が「特許請求の範囲の構成を採用することにより必然的に生じるものとまではいえない」場合は、顕著な効果が否定されることからも(H19 (行ケ)10109)、効果をクレームアップする意義がある!?

 

(判旨抜粋)

【請求項1】…前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することを特徴とする半導体装置。

原出願日当時,当業者において,半導体キャリア用フィルムにおいて,端子間の絶縁抵抗を維持するため,マイグレーションの発生を抑制する必要があると考えられていたこと,マイグレーションの発生を抑制するため,吸湿防止のための樹脂コーティングを行ったり,水に難溶な不動態皮膜を形成したり,半導体キャリア用フィルムを高温高湿下におかないようにしたりする方法が採られていたことは認められる。

しかし,原出願日当時,本件発明1のように,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することにより,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率を向上させ,また,バリア層の表面電位を標準電位に近くすることによって,マイグレーションの発生を抑制することについて記載した刊行物,又はこれを示唆した刊行物は存在しない。そうすると,甲2文献に接した当業者は,原出願日当時の技術水準に基づき,引用発明において本件発明1に係る構成を採用することにより,バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは,予測し得なかったというべきである。

 

https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=3514

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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