効果のクレームアップ(権利者不利)❸

 

平成23年(行ケ)10050【抗骨粗鬆活性を有する組成物】

 

*物のクレーム中の作用効果の記載は、特定事項でないから相違点でない

*引用例が本願発明と同一であり、選択発明の余地がなかった

 

<顕著な作用効果を認めた裁判例>

Cf.H21(行ケ)10238

Cf.H23(行ケ)10018

 

「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,…「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから…実質的な相違点とは認められず…

 

(判旨抜粋)

【請求項1】「カルシウム,キトサン,プロポリスを配合したことを特徴とする抗骨粗鬆活性を有する組成物。」

 

原告は,審決が,相違点1についての検討に当たり,「本願発明における「抗骨粗鬆症活性を有する」なる記載は,組成物の有する活性を単に記載したものであり,「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するものとは認められないため,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」,「引用発明は,腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させる作用を有し,骨粗鬆症を予防,治療するための組成物に他ならないものであるから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」と判断したのは誤りであると主張し,その理由として,本願発明が,骨粗鬆症の治療に対しカルシウムを骨へ直接取り込むことを主眼とする上記引用発明とは異なる技術思想に基づくものであること,本願発明が,カルシウムを補給する前に骨の劣化を抑えることが重要であるとの観点から,カルシウム,キトサン,プロポリスの3種混合物としたことを技術的特徴とするもので,その配合成分のうちキトサンは,骨吸収を抑制する役割を担っているのに対し,引用発明のキトサンの役割は腸管内でのカルシウム吸収を促進するためのものであり,両者の役割が本質的に異なることなどを述べる。

しかし,原告が本願発明の技術的特徴として主張する,骨粗鬆症に対する治療手法としての機序や,キトサンが骨吸収を抑制するという役割などは,本願発明を特定する特許請求の範囲において記載されておらず,「物」の発明としての本願発明を特定するものではないから,そのことを理由に引用発明との相違点の判断を否定する原告の主張は,失当といわなければならない。

なお、本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。

 

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/682/081682_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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