令和2年(行ケ)10015【免疫原性組成物を安定化させ,沈殿を阻害する新規製剤】<鶴岡>

 

 

*クレームアップされた効果が発明特定事項であるとした上で、容易想到でないとした

⇒特定の目的の為にある構成を具備したことという用途発明に近い考え方か?

 

=平成29年(行ケ)10041【熱間プレス部材】<高部>

=平成28年(行ケ)10107【乳癌再発の予防用ワクチン】<森>

=平成27年(行ケ)1009【発光装置】7<大鷹>

 

 

(判旨抜粋)

【請求項1】タンパク質コンジュゲートの,シリコーンにより誘発される凝集を阻害する…を含む多糖類-タンパク質コンジュゲート,を含む製剤。

 

本件明細書の…開示事項を踏まえると,本件発明の製剤がシリコーン誘発凝集の阻害という効果を奏するという発明特定事項の技術的意義は,次のように理解される。①シリコーン誘発凝集には,肺炎球菌の血清型を問わず,遊離肺炎球菌コンジュゲートが関与している。②本件発明の製剤が(i)~(ⅲ)の組成を備えることにより,溶液中においては,肺炎球菌CRMコンジュゲートとアルミニウム塩とが結合し,遊離の肺炎球菌CRMコンジュゲートの量が相対的に減少した状態にある。③上記②の状態にあることにより,上記①の原理によるシリコーン誘発凝集が阻害される。…

相違点4に係る本件発明の発明特定事項,すなわち「シリコーン処理された容器中に含まれる多糖類-タンパク質コンジュゲートの,シリコーンにより誘発される凝集を阻害する」は,肺炎球菌CRMコンジュゲートとアルミニウム塩が結合して,溶液中の遊離肺炎球菌CRMコンジュゲートの量が所期の量まで減少した状態であることにより,遊離肺炎球菌CRMコンジュゲートが関与するシリコーン誘発凝集が阻害されることを意味する。これに対し,…公知発明1に接する当業者は,リン酸アルミニウムに吸着された肺炎球菌CRMコンジュゲートが公知発明1の製剤に含まれることを認識するにとどまり,公知発明1の製剤溶液中における遊離肺炎球菌コンジュゲートの有無及び量を,遊離肺炎球菌コンジュゲートが関与するシリコーン凝集という課題との関係で認識することは容易ではなかったといえる。また,本件発明の製剤中における遊離肺炎球菌CRMコンジュゲートの量は,公知発明1の7vPnCに対して追加する6種の血清型の肺炎球菌CRMコンジュゲートの量によって変わり得るし,追加する各血清型それぞれのアルミニウム塩への吸着しやすさによっても異なるから,当業者は,本件発明の組成を有する製剤の溶液中に遊離肺炎球菌CRMコンジュゲートが存在するかどうかさえ公知発明1から予測できず,その結果,遊離肺炎球菌CRMコンジュゲートが関与するシリコーン誘発凝集が本件発明の組成の製剤において阻害されるか否かも予測できない。

以上によれば,相違点4に係る発明特定事項,すなわち,シリコーン処理された容器中において肺炎球菌CRMコンジュゲートのシリコーン誘発凝集を阻害するために,製剤が(ⅰ)~(ⅲ)の組成を備えることは,当業者にとって,公知発明1から容易に想到し得るものではない。

…原告は…相違点4は実質的には一致点であり,相違点とはならない旨主張する。しかしながら,…原告主張のように,凝集が生じ得るけれども通常はそれが阻害されていることを理解し得るとは必ずしもいえないし,ましてや,その凝集がシリコーンにより誘発されるものであるかどうかは断定し難いものといわざるを得ない。これに対し,本件発明は,13vPnCの凝集の原因をシリコーン誘発凝集であると明確に特定した上で,その凝集を阻害することを発明特定事項としているのであるから,この点において,公知発明1とは相違が存するものといえる。

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/325/090325_hanrei.pdf

 

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)