令和2年(行ケ)10001【(メタ)アクリル酸エステル共重合体】<鶴岡>

 

*本願発明と引用発明とは課題が異なる

⇒引用発明の数値を変更する動機付けがない

⇒進歩性〇

 

「本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない…」

 

(判旨抜粋)

【請求項1】「・・・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を構成するモノマーの全量を100質量%としたとき,上記(A-b)の配合量b(質量%)と上記(A-c)の配合量c(質量%)とが,下記式:10≦b+40c≦26(但し,4≦b≦14,0.05≦c≦0.45)を満たし、・・・」

 

…相違点2は…本件発明は「10≦b+40c≦26(但し0.05≦c≦0.45)」であるのに対し,引用例1…はcが0.5,b+40cが26.8であるというものである。そこで,引用例1発明における上記b及びcの値を変更し,本件発明における数値範囲内に調整することを,当業者が容易に想到し得たか否か否かについて検討する。…

本件発明と引用例1発明とでは技術分野や発明が解決しようとする課題が必ずしも一致するものではない…。…また,…架橋性官能基であるエポキシ基,水酸基,アミド基及びN-メチロールアミド基は,その種類に応じて異なる粘着力や凝集力を示すものと考えられるから,各モノマーは,粘着力や凝集力の点で等価であるとはいえない…。…当業者において,各モノマーを同量の別のモノマーに置き換えたり,水酸基を有するモノマー…を導入した分だけグリシジルメタクリレート…の配合量を減少させて第3成分全体の配合量を維持したりすることが,自然なことであるとか,容易なことであるなどということはできない。…

さらに,…引用例1発明においては,…第1成分ないし第3成分の合計量を100質量%としたときの第3成分の配合量は,0.5~13.0質量%となる…。そうすると,引用例1発明において,グリシジルメタクリレートの配合量を本件発明における数値範囲内である0.45質量%以下とするためには,第3成分の配合量の下限値とされている値である0.5質量%を下回る量まで減少させる必要があるところ,…このような調整を行うべき技術的理由を見いだすことはできない。…

乙6文献に記載された発明は,プラスチックフィルム,紙,布等の基材上に設けられる柔軟性層の表面粘着化処理法に関する発明であること,乙7文献に記載された発明は,耐熱性の再剥離可能なマスキングテープ,シート,ラベル等用の粘着剤の発明であること,乙8文献に記載された発明は,エマルジョン系感圧性接着剤の発明であることが認められるところ,これらの発明と引用例1発明とでは,技術分野や粘着剤又は接着剤に求められる性質及び性能が必ずしも一致するものではないから,これらの発明で採用された数値が,当然に引用例1発明に適用されるものではない…。

被告は…数値限定に技術的意義はない旨主張する。しかしながら,…数値範囲を定めることにより,化粧シートのタック性,施工性,耐熱性及び粘着性につき,一定の技術的効果が奏されていることは明らかである…。

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/009/090009_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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