令和2年(ネ)10004【光照射事件】<大鷹> =大阪地判平成29年(ワ)7532<杉浦>

 

【特許★★】「食い込み」による先使用権は不成立という、一般論を初めて判示した裁判例

 

⇒この裁判例によれば、先使用物が訂正前発明の範囲内であっても、訂正後発明の範囲外であると先使用権不成立となる。

 

 

 

 

 

<解説>

 

1.特許法79条

「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。」

 

 

2.判旨抜粋(先使用権と「食い込み」に関する一般論の判示部分。(※原審判決が判示して、控訴審判決が引用した判示部分。))

「特許法は,先願主義(同法39条1項)の例外として,同法79条所定の要件を満たす場合に先使用による法定通常実施権(先使用権)の成立を認める。ここで,先使用権が認められる者は,『特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし,…特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者』とされているところ,『その発明』とは,いずれも『特許出願に係る発明』を指すと解するのが自然な文理解釈である。また,上記のとおり,先使用権が特許発明の通常実施権であることに鑑みると,先使用権に係る発明は,特許発明と同一のもの又は少なくともその一部であるものをいうと解される。したがって,先使用権が成立するためには,先使用に係る発明が特許発明の技術的範囲に属する必要があると解される。…本件再訂正に係る審決の確定により,本件特許については,本件再訂正後における特許請求の範囲により特許出願,特許権の設定登録等がされたものとみなされるから(特許法128条),…本件訂正発明の技術的範囲に属していたとしても、そのことは、…結論を左右しない。また,このように解したとしても,訂正の結果,特許権者は訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく特許発明の技術的範囲の限度で権利が認められるにとどまることを考えると,特許権者と先行して特許発明を実施していた者との公平を図るという先使用権の制度趣旨に反するものとはいえない。」

 

⇒先使用物(IDB-11/14R及びIDB-11/14W)は、本件再訂正前の発明に入っていたが、本件再訂正後の発明に入っていなかったことを理由として、先使用権不成立。

 

 

 

3.図解

 

本判決は、先使用物(被疑侵害者が本件特許の優先日前に事業の準備等をしていた物)が、訂正前発明の範囲内であっても、(減縮された)訂正後発明の範囲外であると、先使用権は不成立(いわゆる「食い込み」を一切許容しない。)という一般論を判示した[1]これを図解すると、以下のとおりである。・・・

 

 

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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