【発明のカテゴリー④】~均等論
「物の発明」と「方法の発明」とで、本質的部分、作用効果等が異なり得るため、均等論の成否が分かれる可能性がある。
⇒実際に分かれた事案がある。(大阪地判平成8年(ワ)第12220号「注射液の調製方法及び注射装置」事件)
⇒「方法の発明」の権利化も要検討!!
ボールスプライン最高裁判決が示した5要件のうち第1要件における「特許発明の本質的部分」の意義については多数の下級審裁判例が蓄積しており、知財高判(大合議)平成28年3月25日・平成27年(ネ)第10014号「マキサカルシトール」事件が、「特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分である…。そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段 …とその効果…を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。」と判示した。
そうすると、同一明細書中の物の発明と方法の発明であっても、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて把握される「特許発明の課題及び解決手段 …とその効果」が異なれば、「特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分」が異なることが想定されるし、まして、物の発明と製造方法の発明とでカテゴリー自体が異なる場合は、発明の本質的部分が異なり得ることは当然である。最も典型的には、物の発明であれば当該物の構成の一部(によるメカニズム等)が本質的部分と認定されるが、製造方法の発明であれば方法(ステップ)の一部(によるメカニズム)が本質的部分と認定される可能性があるから、本質的部分が異なって認定される余地があり、その結果、均等論の成否が「物の発明」と「製造方法の発明」とで分かれることがあり得るし、実際に分かれた裁判例も存在する。
実際に、大阪地判平成8年(ワ)第12220号「注射液の調製方法及び注射装置」事件は、本質的部分が、物の発明については「構成」であり、方法の発明については「方法(ステップ)」であると認定された上で、結論が分かれた。
これと対照的に、平成22年(ネ)第10089号「食品の包み込み成形方法及びその装置」事件は、物の発明及び方法の発明の両方について、同じメカニズムが本質的部分として認定された結果、何れも均等侵害が認められた。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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