【特許侵害訴訟】控訴審の逆転無効❼

 

オープン式発酵処理装置

 

平成25年(ネ)10017<清水>

 

*特許1は無効となったが、特許2の均等侵害が認められ、二審も特許権者勝訴!!

 

原審・平成21年(ワ)23445<大鷹>

「長さ方向に拡張して,その拡張した面域において糞尿等の発酵処理を行う…動機付け」なし。

 

 

(判旨抜粋【控訴審】~均等論)

①第1要件

*第一要件(非本質)を肯定し、権利行使を認めた。

「…堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するために,前後一対の板状の掬い上げ部材が,それぞれ回転軸の軸方向に対し所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くようにし,掬い上げ部材の内側に向いて傾斜した部材の外側が,その前方に堆積する堆積物の長尺開放面側の外端堆積部に当接し,斜め内側に向けてこれを掬い上げるよう,傾斜板を所定角度内側に向けて配置したことが,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分であると認められる。

そして,本件訂正発明2の攪拌機は,往復動走行に伴って正又は逆回転するものであることから,掬い上げ部が外端堆積部に当接する場合は,回転軸に直交する前後方向のいずれの場合もあり得ることから,そのいずれの場合においても,堆積物を掬い上げる必要があり,そのために,掬い上げ部材を前後にかつ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向させて配設されたものと認められる。そうすると,掬い上げ部材が前後の両方向に傾斜されて配置されるとの構成も,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分であるといえる。

これに対して,本件訂正明細書2には,掬い上げ部材が2枚であることの技術的意義は,何ら記載されておらず,…傾斜板の外面が正又は逆回転時のそれぞれにおいて,外端堆積部に当接することが重要であるから,本件発明2の掬い上げ部材が2枚で構成されることに格別の技術的意義があるとはいえず,本件訂正明細書2に記載されるように2枚の部材を直接溶接してV字状を形成することと,1枚の部材を折曲してV字状を形成することとの間に技術的相違はないから,この点は本質的部分であるとはいえない。また,前記のとおり,前後に傾斜させる角度が,回転軸5aの中心軸線に対して10°~80°の角度であればよく,逆への字状が含まれることや,掬い上げる部材としても,平面な板状に限定されず,外端堆積部に当接して内側に掬い上げることができればよいことに照らすと,掬い上げ部材が,平面な板状で構成されていることも,本質的部分であるとはいえない。そうすると,上記アで述べた,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材が「2枚の板状の部材を傾斜させて配置されるもの」に対し,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,「半円弧状の形状を有する1枚の部材から構成されたもの」であるとの相違点は,本質的部分に係るものであるということはできない。」

 

②第2要件

「…本件訂正発明2は,パドルの先端に設けられた前後一対の掬い上げ部材が,それぞれ所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くように配設されるとの構成によって,往復動走行に伴って正又は逆回転する場合のいずれであっても,外端堆積部に当接する側の掬い上げ部材の外面が作用して,堆積物に当接して堆積物を常に内側(長尺壁側)に向かって掬い上げることにより,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどを防いで,床面を走行する台車の車輪の軌道上に堆肥が達し,円滑な走行を阻害し,その外方へ崩れた拡散分を人手によりスコップなどで掬い上げ,堆積物の頂面へ積み上げる面倒な作業を要するなどの不都合を解消できるというものである。

他方,…ロ号装置は,台車106の脚部113に近い側に位置する撹拌機105の回転軸105aの周面に設けられたパドル105bの先端の掬い上げ部材105dが,同目録記載の図5に示すような半円弧状の形状を有し,その半円弧状部が図4に示すように,円弧の開口部が長尺開放面側を向くように取り付けられた構成を備えており,回転軸は一方向とその反対方向に回転可能な構成,すなわち,回転軸に対して正又は逆回転可能な構成を備えている。そして,この構成を採用したことにより,往復動走行に伴って正又は逆回転する場合のいずれであっても,外端堆積部に当接する側の1/4円弧状部分の外面が作用して,堆積物に当接して堆積物を常に内側(長尺壁側)に向かって掬い上げることができるものであり,被告が認めるとおり,堆積部に半円弧状部の外側が当接し,長尺壁の側に堆肥を寄せ,レールへの堆肥の崩れ落ちを避けるという効果を有するもの…であるから,本件訂正発明2と同様に,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するものである。また,オープン式発酵処理装置が具備するロータリー式撹拌機に回動式パドルを用いた場合に比し,容易かつ安価にかつ軽量に構成できるとともに,稼動時の消費電力の低減をもたらすという効果が得られるものと認められる。したがって,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材とロ号装置の掬い上げ部材105dとの作用効果は同一である…。」

 

③第3要件

*進歩性判断と同じ枠組みで置換容易性を認めた

「本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材とロ号装置の掬い上げ部材105dとは,前記のとおり,本件訂正発明2の掬い上げ部材が2枚の板状であるのに対して,ロ号装置の掬い上げ部材が1枚の半円弧状である点で相違するものである。そして,…掬い上げ部材が2枚であることに格別の技術的意義があるともいえない。そうすると,本件訂正明細書2に開示される2枚の板状の部材を溶接してV字型を構成する実施例に直面した当業者において,1枚の部材を折り曲げて構成することは容易に着想することであり,さらに,本件訂正発明2における掬い上げ部材の傾斜角度が広範なものであることに照らせば,1枚の板を折り曲げて湾曲させ,V字状あるいは逆への字状等に代えて半円弧状とすることも,当業者であれば,必要に応じて適宜なし得る設計変更にすぎない。」

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/077/084077_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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