【特許侵害訴訟】控訴審の逆転無効❷【一太郎事件】
知高(大合議)平成17年(ネ)10040
控訴審で提出した外国刊行物~却下せず
(判旨抜粋)
攻撃防御方法の提出が時機に後れたものとして民事訴訟法157条により却下すべきであるか否かは,当該訴訟の具体的な進行状況に応じて,その提出時期よりも早く提出すべきことを期待できる客観的な事情があったか否かにより判断すべきものであるところ,控訴人が主張する前記事情は,いずれも,被控訴人の請求に係る本件訴訟の具体的な進行状況とは関係のない事情をいうものにすぎない。
…「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,本件第1,第2発明の構成要件を充足するものであるところ,控訴人製品は,前記パソコンの生産に用いるものである。すなわち,控訴人製品のインストールにより,ヘルプ機能を含めたプログラム全体がパソコンにインストールされ,本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が初めて完成するのであるから,控訴人製品をインストールすることは,前記パソコンの生産に当たるものというべきである。
本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載によれば,本件第1,第2発明は,「(従来の)方法では,キーワードを忘れてしまった時や,知らないときに機能説明サービスを受けることができない」という課題を,「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有する構成とした」ことにより解決したものであるが,「控訴人製品をインストールしたパソコン」においては,前記のような構成は控訴人製品をインストールすることによって初めて実現されるのであるから,控訴人製品は,本件第1,第2発明による課題の解決に不可欠なものに該当するというべきである。…
…間接侵害の主観的要件を具備すべき時点は,差止請求の関係では,差止請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時であり,弁論の全趣旨に照らせば,被控訴人の前記主張は,その趣旨をも含意するものと解されるところ,本件においては,控訴人は,遅くとも本件訴状の送達を受けた日であることが記録上明らかな平成16年8月13日には,本件第1,第2発明が被控訴人の特許発明であること及び控訴人製品がこれらの発明の実施に用いられることを知ったものと認めるのが相当である。
以上によれば,控訴人が業として控訴人製品の製造,譲渡等又は譲渡等の申出を行う行為については,本件第1,第2発明について,特許法101条2号所定の間接侵害が成立する…。
…特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解するのが相当である。本件において,控訴人製品をヘルプ機能を含めた形式でパソコンにインストールすると,必ず本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が完成するものであり,控訴人製品は,本件第1,第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものでるから,同号にいう「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらないというべきである。
なお,控訴人製品については,これを専ら個人的ないし家庭的用途に用いる利用者(ユーザー)が少なからぬ割合を占めるとしても,それに限定されるわけではなく,法人など業としてこれをパソコンにインストールして使用する利用者(ユーザー)が存在することは当裁判所に顕著である。そうすると,一般に,間接侵害は直接侵害の有無にかかわりなく成立することが可能であるとのいわゆる独立説の立場においてはもとより,間接侵害は直接侵害の成立に従属するとのいわゆる従属説の立場においても,控訴人が控訴人製品を製造,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為について特許法101条2号所定の間接侵害の成立が否定されるものではない。…
なお,API関数とは,一般に,アプリケーションソフトから基本ソフト,すなわちオペレーティング・システム(OS)の機能を呼び出すためのもの(Application Program Interface)をいうことは,当裁判所に顕著であるところ,仮に,控訴人の主張するように,控訴人製品に含まれているAPI関数がソフトウエア開発のために広く公開されているものであるとしても,そのことから直ちに,控訴人製品自体が特許法101条2号所定の間接侵害の対象から除外されている「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当することになるわけではない…。
本件第3発明についての特許法101条4号所定の間接侵害の成否
…「控訴人製品をインストールしたパソコン」について,利用者(ユーザー)が「一太郎」又は「花子」を起動して,別紙イ号物件目録又はロ号物件目録の「機能」欄記載の状態を作出した場合には,方法の発明である本件第3発明の構成要件を充足するものである。そうすると,「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,そのような方法による使用以外にも用途を有するものではあっても,同号にいう「その方法の使用に用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきであるから,当該パソコンについて生産,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為は同号所定の間接侵害に該当し得るものというべきである。しかしながら,同号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。本件において,控訴人の行っている行為は,当該パソコンの生産,譲渡等又は譲渡等の申出ではなく,当該パソコンの生産に用いられる控訴人製品についての製造,譲渡等又は譲渡等の申出にすぎないから,控訴人の前記行為が同号所定の間接侵害に該当するということはできない。
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※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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