【特許・実案・意匠・商標】令和3年特許法等改正の概要(施行日決定)
特許法等の一部を改正する法律案が5月14日に可決・成立しました(5月21日公布)。
今回の法改正の主なポイントは以下の3点です。
1.新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備
(1)審判の口頭審理等におけるウェブ会議システムの導入
(2)特許料等の支払方法の拡充及び印紙予納の廃止
(3)意匠、商標の国際出願の登録査定の通知等の電子化
(4)災害等の理由による特許料等の納付期間徒過後の、割増特許料の免除
2.デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
(1)海外からの模倣品持ち込みに関する規制の強化
(2)特許権の訂正審判等における通常実施権者の承諾要件の見直し
(3)手続期間の徒過による権利消滅後の権利回復の要件緩和
3.知的財産制度の基盤強化
(1)特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
(2)特許料等の料金体系の見直し
(3)弁理士制度の改革
なお、9月14日に施行期日を定める政令が閣議決定され、一部の改正を除き、施行日が決定しました。(施行日について、項目毎に追記しました。) |
1.新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備
(1)審判の口頭審理等について、審判長の判断で、ウェブ会議システムを利用して手続を行うことが可能となります。(特許・実用新案・意匠・商標)
新型コロナウイルスの感染拡大により、県境を越えた移動の自粛やテレワークの促進が要請される中、ウェブ会議システムを利用することにより、審判手続が柔軟に進められることが期待されます。
(令和3年10月1日施行。)
(2)特許料や登録料等の支払方法が拡充されます。
口座振込等による予納や、窓口でのクレジットカード支払等が可能となります。一方で、印紙予納が廃止されます。
(口座振込等による予納については、令和3年10月1日施行。窓口でのクレジットカード支払等については、令和4年4月1日施行。)
(3)意匠・商標の国際出願の登録査定の通知等は、従来郵送で行われていましたが、これに代えて、国際機関を経由した電子送付を可能とするなど、手続が簡素化されます。(意匠・商標)
(意匠国際出願手続については、令和3年10月1日施行。商標国際出願手続については、別途、施行期日が定められる予定。)
(4)感染症拡大や災害等により特許料等の支払ができず、特許料の納付期間を経過した場合に、相応の期間内において割増特許料の納付を免除する規定が設けられます。(特許・実用新案・意匠・商標)
(令和3年10月1日施行。)
これらの改正により、コロナ禍に対応した更にユーザフレンドリーな制度となることが期待されます。
2.デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
(1)模倣品輸入に関し、個人使用目的であっても、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を意匠権・商標権の侵害として位置付けることとなりました。(意匠・商標)
具体的には、意匠法・商標法の改正により「輸入」に、「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることとなりました。これにより意匠権・商標権の保護が拡充され、特に税関による意匠権・商標権侵害物品の輸入取締りがより実効化されることが期待されます。
(別途、施行期日が定められる予定。)
(2)特許権について通常実施権者が存在するとき、この特許権の設定登録後に訂正の請求や訂正審判により明細書・クレーム・図面の訂正を行う場合や、特許権を放棄する場合、現在は通常実施権者の承諾を得ることが必要とされていますが、改正後は、このような訂正等の際に通常実施権者の承諾は不要となります。(特許・実用新案・意匠)
特許権のライセンス形態が複雑なものである場合やライセンス契約の数が多い場合等、特許権の訂正等の際に全ての通常実施権者の承諾を得ることが実務上、大変な負担となることがありました。今後は訂正等に関して通常実施権者の承諾は不要となります。なお、引き続き専用実施権者及び質権者については、訂正等に関して承諾が必要となります。
(令和4年4月1日施行。)
(3)特許権等が手続期間の徒過により消滅した場合に、権利を回復できる要件が緩和されます。(特許・実用新案・意匠・商標)
現在は権利の回復のためには特許法条約の「相当な注意基準」の下で「正当な理由」が必要とされていますが、この判断基準が厳しく、権利の回復が困難な場合がありました。特許法条約の「故意基準」の下での改正後の各規定では、以前よりも権利の回復が認められやすくなることが期待されます。主な手続きとしては、出願審査請求、優先権主張出願、外国語書面出願及びPCT国内移行出願の翻訳文提出、及び特許料・登録料納付があげられます。
(別途、施行期日が定められる予定。)
3.知的財産制度の基盤強化
(1)特許権侵害訴訟において、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度(いわゆる日本版「アミカス・ブリーフ」制度)が導入されます。(特許・実用新案)
過去、標準必須特許に関する事件について、知的財産高等裁判所が当事者以外に広く意見を求め、これに応える形で様々な立場から多くの意見が提出されたことがありました。今回の改正特許法で、このような第三者からの意見募集が制度として導入されました。
自らの関係する業界に関する特許事件において、当該業界のビジネス慣行等を裁判所の判断に反映させるべくこの制度を活用することは勿論ですが、業界の垣根が低くなりつつある昨今、従来は関係しないと考えられていた業界の慣行等にも配慮すべき場合がありえます。自らが関与していない事件においても、裁判所の求めに応じて第三者として適切に意見を提出することは、実態に即した知的財産権制度の運用のため、今後更に重要になると考えられます。
なお、このように裁判所が第三者から意見を募集できる事件は、「特許権(実用新案権)侵害訴訟」に限られるため、審決取消訴訟や、意匠権・商標権・不正競争防止法に関する訴訟は対象外となります。
(令和4年4月1日施行。)
(2)特許料等の料金体系が見直されます。具体的には、法改正により、特許料等についてその金額を政令で定められるように改正されます。(特許・実用新案・意匠・商標)
審査負担の増大や、手続のデジタル化への対応、そして収支バランスの確保といった背景から、今後、政令で定められる金額は従来の金額から引き上げられることが予想されます。
(令和4年4月1日施行。)
(3)弁理士制度に関し、弁理士を名乗って行うことができる業務に農林水産関連の知的財産権(植物の新品種・地理的表示)に関する相談等の業務が追加されました。法改正により、弁理士としてクライアントの皆様に提供できるサービスの範囲が拡がります。
(令和4年4月1日施行。)
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。