【気体溶解装置】0.8≦L≦1.4の場合に、課題を解決できると当業者が認識できるか?

 

 

①東地平成29年(ワ)13797<佐藤>

*数値の全範囲で課題を解決できると認識できる必要がある

⇒サポート要件×

 

②平成31年(行ケ)10025<大鷹>

*発明の課題を抽象的に把握した

⇒サポート要件〇

 

 

※同じJP6116658についてサポート要件の判断結果が異なったのは、判断主体である裁判官が変わったこともあるが、①は暗黒の2年間の判決であり、②はピリミジン大合議判決後のサポート要件プロパテント後の判決であったという、時期に違いであると考えられる。

⇒①のスキームで判断したら、数値限定発明・パラメータ発明の多くがサポート要件違反になってしまう!!

 

 

(①の判旨抜粋)

ア …本件訂正は,特許請求の範囲請求項1の「細管」の内径及び長さについて「1.0mmより大きく3.0mm以下の内径の細管(但し,0.8m以下の長さのものを除く)」と特定するものである。本件訂正後の請求項1の記載によれば,本件訂正後の「細管」の長さは0.8mより長いものをすべて含むと解される。

イ 本件訂正発明の目的は,①気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持して提供すること,②ウォーターサーバー等へ容易に取り付けることができる気体溶解装置を提供することにあるところ…,同明細書等には維持すべき過飽和の濃度に関し,「2.0ppmより大きいことで過飽和状態を維持できる」…と記載されている。そして,本件訂正発明の「管状路」について,…「管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較的長尺であり径が小さいことが好まし」いと記載されている。本件明細書等の上記記載によれば,本件訂正発明の課題である過飽和状態の安定的な維持のためには,過飽和の濃度が2.0ppmより大きいことを要すると解されるところ,管状路(細管)の長さについては,比較的長尺が好ましいとの記載が存するのみで,具体的にどのような長さであれば本件訂正発明の課題を解決することができるかは明らかではない。

ウ そこで,本件明細書等に開示された実施例及び比較例を参酌すると,実施例1~13については,長さ1.4mから4mまでの長さの細管を使用し,過飽和の状態の水素水を得ることができ,かつ,持続的に維持できたとされている。他方,比較例においては,0.4m及び0.8mの長さの細管を使用したところ,2.0ppm以上の過飽和状態の水素水を得ることができなかったとされている。…本件明細書等の実施例及び比較例…を参酌すると,長さ1.4mから4mまでの長さの細管を使用した場合には本件訂正発明の課題を解決することができ,0.8m以下の長さの細管を使用した場合には同課題を解決することができないことが示されているが,長さが0.8mより長く,1.4mより短い細管については,本件訂正発明の課題を解決し得るような水素水を得られるとの結果は示されていない。

 

 

(②の判旨抜粋)

本件訂正は,…「降圧移送手段としての管状路」について,「1.0mmより大きく3.0mm以下の内径の細管(但し,0.8m以下の長さのものを除く)からなる降圧移送手段としての管状路」とし,細管の内径及び長さの数値を限定し…た…。

…本件明細書には,本件特許発明1の課題は,「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」する「気体溶解装置」を提供することにあり,その課題を解決する手段として,「降圧移送手段を設け,さらに液体にかかる圧力を調整する」構成を採用したことが開示されているものと認められる。…

加圧型気体溶解手段の圧力Yの値が大きければ,気体を液体に多く溶解させることができるが,細管内を流れる液体の流速は速くなり得ること,細管の長さLの値が大きければ,細管内壁の抵抗により細管内を流れる液体の流速が遅くなり得ることは,技術常識である…。…細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいことを理解できる。

…当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,本件特許発明1の気体溶解装置は,水に水素を溶解させて水素水を生成し,取出口から吐出させる装置であって,気体を発生させる気体発生手段と,この気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解手段と,気体を溶解している液体を導いて溶存及び貯留する溶存槽と,この液体が細管からなる管状路を流れることで降圧する降圧移送手段とを備え,降圧移送手段により取出口からの水素水の吐出動作による管状路内の圧力変動を防止し,管状路内に層流を形成させることに特徴がある装置であり,一方,必ずしも厳密な数値的な制御を行うことに特徴があるものではないと理解し,例えば,細管の内径(X)が1.0mmより大きく3.0mm以下で,かつ,細管の長さ(L)の値が0.8mより大きく1.4mより小さい数値範囲のときであっても,「細管の内径X及び水素水の流量の各値が同じである場合に水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値を大きくすればよく,この場合に加圧型気体溶解手段の圧力Y及び細管の長さLの値をいずれも大きくして,水素濃度の値を高めるには,加圧型気体溶解手段の圧力Yの値の増加割合が細管の長さLの値の増加割合よりも大きくなるように各値を選択すればよいこと」…を勘案し,細管からなる管状路内の水素水に層流を形成させるようX,Y及びLの値を選択することにより,「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持」するという本件特許発明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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