★★★令和2年(行ケ)10041【止痒剤】<森>

 

引用例は「技術的裏付けの乏しい一つの仮説」にすぎないものであり、「本件優先日当時において研究の余地が大いに残されていた」

⇒本件発明の「用途」に用いる動機付けなし

⇒進歩性〇

 

★★★平成25年(行ケ)10209【血管内膜の肥厚抑制剤】<清水>も同旨!

 

*延長登録を認めた令和2年(行ケ)10063と同じ特許

 

(判旨抜粋)

…本件優先日当時,Cowanらが,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があることを実験等により実証していたとは認められないし,また,その作用機序等も説明していない。さらに,甲4には,「この行動,及びその行動の発生におけるボンベシンの考え得る役割については,更に研究する必要がある。」と記載されており,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みには関連性があると断定まではされていない。…甲25では,そもそもラットのグルーミングの実施形態,目的,又は,これを支配する状況等は,ほとんど何も知られていないとされており,…甲27でも,ボンベシンにより誘発される行動が,痛み等の侵害刺激に基づく可能性があるとの指摘がされており,…甲9においても,信頼性のある痒みの動物モデルは存在しない,マウスは起痒剤Compound48/80を皮下注射されても引っ掻き行動をせず,マウスがグルーミング中に耳及び体の引っ掻き行動するのが痒みに関連した行動とは考えられないなどとされており,Cowanら以外の研究者は,ボンベシンやそれ以外の原因により誘発されるグルーミング・引っ掻き行動が,痒み以外の要因によって生じているとの見解を有していたと認められる。…甲9は,Compound48/80やサブスタンスPを起痒剤として取り扱っており,本件明細書の実施例12でも起痒剤としてボンベシンではなく,Compound48/80が使用されている一方,ボンベシンは,本件優先日当時,起痒剤として当業者に広く認識されて用いられていたものであるとは,本件における証拠上認められない。以上からすると,本件優先日当時,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痒みの間に関連性があるということは,技術的な裏付けがない,Cowanらの提唱する一つの仮説にすぎないものであったと認められる…。…

本件優先日当時,オピオイドκ受容体作動性化合物が,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制する可能性が,Cowanらによって提唱されていたものの,甲1の化合物Aがボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するかどうかについては,実験によって明らかにしてみないと分からない状態であったと認められる上,…ボンベシンが誘発するグルーミング・引っ掻き行動の作用機序が不明であったことも踏まえると,なお研究の余地が大いに残されている状況であったと認められる。

…本件優先日当時,Cowanらは,①ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が,痒みによって引き起こされているものであるという前提に立った上で,②オピオイドκ受容体作動性化合物のうちのいくつかのものが,ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱することを明らかにしていた。しかし,上記①の点については…技術的裏付けの乏しい一つの仮説にすぎないものであった。上記②の点についても…本件優先日当時において研究の余地が大いに残されていた。そうすると,本件優先日当時,当業者が,Cowanらの研究に基づいて,オピオイドκ受容体作動性化合物が止痒剤として使用できる可能性があることから,甲1発明の化合物Aを止痒剤として用いることを動機付られると認めることはできない…。

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/201/090201_hanrei.pdf

 

 

 

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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