◆判決本文
本件は、下記原告表示1~3(原告各表示)を商品等表示として使用し、下記原告商標1~3(原告各商標)と指定商品「すし」・役務「すしを主とする飲食物の提供」等に係る商標権(原告各商標権)を保有する被控訴人(原告)が控訴人(被告)に対し、控訴人(被告)が「被告ウェブページ目録」1及び2記載の各ウェブページ(本件各ウェブページ)において下記被告表示1及び2(被告各表示)を掲載した行為(本件ウェブページ掲載行為)等について、不正競争防止法2条1項1号又は2号に該当するとともに、原告各商標権の侵害(商標法37条1号)を構成すると主張して、被告各表示の差止、削除及び損害賠償を求める事案である。
原判決(東京地判令和6年3月19日(令3(ワ)11358号)裁判所ウェブサイト)は、原告各商標と被告各表示は各類似し、原告各商標の指摘役務「すしを主とする飲食物の提供」と被告各表示に係る役務(すしを主とする飲食物の提供)は類似し、本件ウェブページ掲載行為は、商標法2条3項8号に該当するものとして、商標の「使用」に当たるものと認定判断し、もって本件ウェブページ掲載行為が原告各商標権を侵害するものと認め、被告各表示の差止、削除及び損害賠償の一部を認容したところ、控訴人(被告)が控訴した。
本判決は、判決要旨1~4により、原判決の控訴人(被告)敗訴部分を取り消し、被控訴人(原告)の請求をいずれも棄却した。
1.被告各表示の商標法2条3項8号該当性について
本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そこで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を営んでいることを紹介するものであると認められるから、本件ウェブサイト中の被告各表示を付した本件各ウェブページについても、本件すし店の「役務に関する広告」(商標法2条3項8号)に当たると認めることはできない。
2.被告各表示と原告各商標権の侵害について
被告各表示は、本件すし店の日本国内における役務の提供について用いられているものではない。被告各表示を見た日本国内の消費者が被告各表示により役務の提供の出所を誤認したとしても、本件すし店が日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果は、常に日本の商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内で原告各商標権の出所表示機能が侵害されることはない。
3.商品等表示の使用(不正競争防止法2条1項1号)について
前記のとおり、本件各ウェブページにおいて、被告各表示は、日本からの食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用されていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用し、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできない。また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供する役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内において、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできない。
4.商品等表示の使用(不正競争防止法2条1項2号)について
同様の理由により、被告各表示は、不正競争防止法2条1項2号に規定する「商品等表示」としての使用には該当しない。
1.判決要旨1について
判決要旨1は、本件ウェブサイトは、その構成と記載内容によれば、全体として、被告グループが外国で日本食を提供する飲食店チェーンを展開し、そこで提供される日本食の食材を日本から輸出する事業を営んでいることを紹介するものであるから、かかる本件ウェブサイト中の本件各ウェブページにおいて被告各表示が同チェーン店の一つとしての本件すし店の店舗名として使用されているとしても、かかる被告各表示の使用は、本件すし店に係るすしを主とする飲食物の提供の広告としての使用ではない、と認定判断したものであり、本件各ウェブページにおける本件すし店の店舗名としての被告各表示の使用を本件すし店に係るすしを主とする飲食物の提供の広告としての使用と認定判断した原判決と、その認定判断が分かれたところである。
2.判決要旨2について
商標権の効力は、裁判例上、属地主義により、国内に限定されるものとされ(知財高判平成25年1月10日判時2188号103頁〔LANCASTER事件〕。特許権の効力につき判例同旨(最判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁〔BBS並行輸入事件〕及び最判平成14年9月26日民集56巻7号1551頁〔カードリーダー事件〕))、それ故、「商標権の効力」が及ぶ「商標の使用」(商標法25条及び2条3項)は、国内で肯認される必要があるものと考えられる。
もっとも、かかる国内での「商標の使用」の肯否は、即物的なものではなく、法的評価によるものであり、裁判例上、いずれも「国内」での商標の使用の有無が明示的に問題とされる不使用取消関係事件(商標法50条「日本国内において…商標の使用」参照)に係るものではあるものの、国内での商標の使用、特に商標法2条3項8号該当性は、国外サーバ上のウェブページで国外の需要者を対象に商品の広告等に商標が使用された場合等(知財高判平成17年12月20日判時1922号130頁〔PAPA JOHN‘S事件〕)に否定される一方、商標権者により外国で商標を付された商品が独占的販売店を通じて国内に輸入され、取引書類に写真掲載により展示された場合(知財高判平成25年1月10日判時2188号103頁〔LANCASTER事件〕)や所在地不詳のサーバ上のウェブページで国内の需要者に向けて商品の広告及び注文フォームに商標が使用された場合(知財高判平成29年11月29日(平29(行ケ)10071号)裁判所ウェブサイト〔COVERDERM事件〕)に肯認されてきた。また、特許権侵害事件に係る裁判例上、国外での物の製法による製造物の国外での日本向け「譲渡」の国内での「申出」の場合に、特許権の効力が及ぶ国内での「物を生産する方法の発明」の「実施」(特許法68条及び2条3項3号)が肯認され、特許権侵害の成立が肯定されたことがある(東京地判令和2年9月24日(平28(ワ)25436号)裁判所ウェブサイト〔L-グルタミン酸の製造方法等事件〕)。
かかる状況の下で、判決要旨2は、実質的に、商標法2条3項8号所定の「広告」に係る「役務」は、国内で提供されるものであることを要し、国外でのみ提供されるものでは足りないとの解釈により、本件すし店が国外ですしを主とする飲食物を提供していても、国内ですしを主とする飲食物を提供していない以上、仮に本件すし店に係るすしを主とする飲食物の提供の広告それ自体が国内で行われるものとした場合でも、原告各商標権の出所表示機能は害されず、原告各商標権の侵害は成立しない旨を判断したものと理解され、相当と評価されよう。また、かかる判決要旨2は、例えばインターネットを通じて国外のサーバ上のウェブサイトから商標法2条3項8号所定の「広告」に係る「役務」が国内の需要者向けに提供される場合に、商標法2条3項8号該当性を否定するものではないと理解されよう。
3.判決要旨3について
不正競争防止法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示の「使用」等による需要者の混同のおそれを防止するものであり、かかる同号の趣旨から、規定文言上明記されていないものの、一般に商品等表示としての使用等が必要とされる。かかる点において、商標の「使用」、特に商標法2条3項8号所定の「役務に関する広告」該当性に係る判決要旨1や、「商標権の効力」が及ぶ「商標の使用」、特に商標法2条3項8号所定の「広告」に係る「役務」の国内提供を必要とする判決要旨2は、不正競争防止法2条1項1号にも同様に妥当するものと考えられる。判決要旨3は、その旨を判示したものと理解され、相当と評価されよう。
4.判決要旨4について
不正競争防止法2条1項2号は、明文上、「自己の商品等表示として」他人の著名な商品等表示と同一又は類似のものを「使用」等する行為を規制しており、それ故、商標の「使用」、特に商標法2条3項8号所定の「役務に関する広告」該当性に係る判決要旨1や、「商標権の効力」が及ぶ「商標の使用」、特に商標法2条3項8号所定の「広告」に係る「役務」の国内提供を必要とする判決要旨2は、不正競争防止法2条1項2号にも同様に妥当するものと考えられる。判決要旨4は、その旨を判示したものと理解され、現行法の解釈としては、相当と評価されよう。
もっとも、同号は、不正競争防止法2条1項1号の上記趣旨とは異なり、著名な商品等表示の希釈化等を防止するものである(経済産業省知的財産政策室編「逐条解説不正競争防止法」(令和6年4月1日施行版)83頁)ところ、学説上、立法論として、かかる不正競争防止法2条1項2号の独自の趣旨に即して、例えば、希釈化等のおそれの要件を追加する(茶園成樹「商標・商品等表示の混同が生じない場合の特別な保護」別冊パテント73巻15号1頁)一方、「自己の商品等表示として」の要件を削除する(林いづみ「原・被告の周知・著名性と混同のおそれの相関関係」パテント72巻4号105頁)ことにより、同項1号の補完ではない、同項2号の独自の存在意義を明確にするような法改正の要否・当否が議論されている。判決要旨4は、かかる立法論にも、参考になるものと思われる。
1.被告各表示の商標法2条3項8号該当性について
「本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、・・・本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そこで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を営んでいることを紹介するものであると認められるから、被告各表示を付した本件各ウェブページについても、本件すし店の『役務に関する広告』に当たると認めることはできない。」
「本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、被告各表示を用いた部分が本件すし店の役務を『広く世間に告げ知らせる』という一面があることを全く否定することはできないとしても、全体からみると、本件各ウェブページは日本からの食材の輸出という役務の広告というべきであって、被告各表示を用いた部分は、ダイショーグループが展開する他の飲食店チェーンの紹介と併せて、国内の事業者に対し、ダイショーグループを通じて輸出した場合の食材の使用先や使用状況を明らかにし、これにより被告との間で食材の輸出取引を行うための誘因とする目的で使用されているというべきである。」
2.被告各表示と原告各商標権の侵害について
「被告各表示は、本件すし店の日本国内における役務の提供について用いられているものではない。被告各表示を見た日本国内の消費者が被告各表示により役務の提供の出所を誤認したとしても、本件すし店が日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果(原告の店であると誤認して、本件すし店から指定役務の提供を受けること)は、常に日本の
商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内で原告各商標権の出所表示機能が侵害されることはない。」
「もともと、一国において登録された商標は、他の国において登録された商標から独立したものとされており(パリ条約6条1項及び3項)、かつ、いわゆる属地主義の原則により、商標権の効力は、その登録された国内に限られるものと解される。外国において適法に登録された商標である被告各表示が当該外国における指定役務の提供を表示するため本件各ウェブページ上で使用された場合において、原告各商標権に基づき被告各表示の使用差止等を認めることは、実質的にみて、原告各商標の国内における出所表示機能等が侵害されていないにもかかわらず、外国商標の当該外国における指定役務表示のための適法な使用を日本の商標権により制限することと同様の結果になるから、商標権独立の原則及び属地主義の原則の観点からみても相当ではないというべきである。」
「上記のとおり解することは、共同勧告において、インターネット上の標識の使用は、メンバー国で商業的効果を有する場合に限り、当該メンバー国における使用を構成するとされていること(共同勧告2条)とも整合するものである。」
3.商品等表示の使用(不正競争防止法2条1項1号)について
「本件各ウェブページにおいて、被告各表示は、日本からの食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用されていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用し、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできない。また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供する役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内において、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできない。
そうすると、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表示として『使用』するもの(不競法2条1項1号)に当たらない」。
4.商品等表示の使用(不正競争防止法2条1項2号)について
「同様の理由により、被告各表示は、不競法2条1項2号に規定する『商品等表示』としての使用には該当しない。」
【Keywords】商標法2条3項8号、役務に関する広告、属地主義、商標的使用、不正競争防止法2条1項1号、不正競争防止法2条1項2号、商品等表示としての使用、すしざんまい、Susi Zanmai
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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