東京地方裁判所平成30年12月21日判決〔平成29年(ワ)第18184号〕骨切術用開大器事件~均等論の第5要件の解釈適用について~

 

著者: 弁護士・弁理士 飯田 圭
雑誌名: 特許研究第68号
出版社: 独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)
発行日: 2019年9月
詳細: 均等論の第5要件,特に不補正・不訂正クレーム文言に係る出願時の「特段の事情」については,近時,マキサカルシトール事件最高裁判決が,出願時に容易に想到し得た同効材について直ちに一律に「特段の事情」を肯認する見解を否定するとともに,客観的外形的表示説を採用して,日本版デディケーションの法理を肯定した。本件判決は,かかるマキサカルシトール事件最高裁判決後,初めて,特に補正・訂正クレーム文言に係る補正・訂正時の「特段の事情」について,減縮補正・訂正の事実それ自体のみにより直ちに一律に「特段の事情」を肯認する広義説によらず,これを肯認しない狭義説により,補正クレーム文言について補正時の「特段の事情」を肯認しなかった裁判例として意義を有する。
この点,初めて均等論を肯定し,その要件を定立したボールスプライン事件最高裁判決及び上記マキサカルシトール事件最高裁判決から「禁反言の法理」のみが「特段の事情」全体の法的根拠であると理解される。そこで,「禁反言の法理」の基礎である民法上の禁反言の法理及びこれと上記マキサカルシトール事件最高裁判決との関係に照らして「特段の事情」全体に関する統一的・一般的な判断基準を検討したうえで,かかる判断基準をも参照しながら検討すると,本件判決が,広義説によらず,狭義説によった点は,相当と評価される。また,本件判決は,あくまでも客観的・外形的に見た場合における減縮補正の目的・趣旨・意義・内容等を問題としたものであって,出願人による減縮補正の主観的な意図を問題としたものではないと理解され,そのようなものとして,ボールスプライン事件最高裁判決及びマキサカルシトール事件最高裁判決の下での狭義説により「特段の事情」を否定した事例判断としても相当と評価される。
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