1.公益団体等が所有する商標権について通常使用権の許諾が可能になります(商標法第31条)
商標法第4条第2項の適用を受けて登録された商標は、商標権者である公益団体等(自治体、大学等)の権威を尊重する必要性があることから、これらの者のみに使用を認め、通常使用権の設定は認められておりませんでした。
しかしながら、自治体や大学などが自己商標の認知度を向上させる手段として、他者にライセンスを与えることを可能にすべく、今般の法改正により、公益団体等が所有する商標権についても通常使用権を許諾することができるようになります。
なお、専用使用権は、これまで通り、他者に設定することはできません。
2.ケースによっては商標権侵害における損害額の増額が可能になります(商標法第38条1項)
商標法38条1項に基づき、侵害品の譲渡数量に真正品の単位数量あたりの利益額を乗じて得た金額を損害額として主張する際、商標権者(又は専用使用権者)の使用能力に応じた額を超える部分、及び、譲渡数量の一部または全部に相当する数量を商標権者(又は専用使用権者)が販売できない事情がある際には、これらの事情に相当する数量に応じ損害額が減額されていました。
しかし、この場合、特に、個人や事業規模の小さい中小企業・ベンチャー企業が保有する商標権が侵害された際、前記規定の適用により損害額が控除されてしまい、十分な有効な救済とならないケースもありました。
今回の改正法においては、上述の理由により損害額が控除される場合、控除部分に相当する数量について、ライセンス料相当額を上乗せできるようになります(商標法第38条1項2号)。
また、改正法では、このライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、商標権侵害があったことを前提とした対価を考慮することが出来る旨が明記され(商標法第38条4項)、従前より、も訴訟当事者間の具体的事情を考慮したうえで損害賠償額の算定を行うことが明確化されました。すなわち、侵害訴訟において算定されるライセンス料率と、ライセンス交渉において定められるライセンス料率とを同じにすべく必然性はなく、故に、法改正によって、前者の料率が後者の料率と比べて高くなることも予測されます。
なお、損害額の算定に関する法改正は、特許法、実用新案権法、意匠法でも同様の改正が予定されています。
3.国際商標登録出願における指定商品・役務表示の補正可能な時期が拡大されます(商標法第68条の28)
従来、国際商標登録出願については、指定商品・役務表示の補正ができる時期は、暫定拒絶通報及び拒絶理由通知の応答期限のみでしたが、改正法においては、事件が審査、審判又は再審に係属していれば、補正ができることになります。